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エコノミスト柯隆氏に聞く「中国経済の今とこれから」 知財保護と企業民営化は簡単には進まない。先進国への分水嶺は2020年まで待つことに

オピニオンリーダーが語る

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減速傾向が明確になってきた中国経済。習近平国家主席の訪米(今年9月)も実質的な収穫はなかったという見方が多い。株式や不動産などのグローバル市場に大きな影響を与える中国経済の現状と展望を、富士通総研主席研究員の柯隆氏に聞いた。


中国経済の現状について、どのように見ていますか。

富士通総研
主席研究員 柯隆氏
柯氏

 ひとことでいえば、将来への方向性が見えなくなってきています。これまでは、「とにかく経済成長を志向している」という点で非常にわかりやすかった。成長が鈍化したら、あらゆる財政・金融政策を次々に投入してきたわけです。証券市場や投資家から見ると、わかりやすくて安心できました。
 現在はいわゆる「新常態」(ニューノーマル)。これは言葉に意味があるわけではなく、「高い成長を目指すことができない」と理解して良いでしょう。半ばあきらめている感が強い。今後の中国経済は成長への基軸が見えない状況です。
 中国はいま、ひとつの時代が終わり新しい時代に入るターニングポイントを迎えています。これからは、量的拡大から質的成長へ向かうことになるでしょう。しかし、目的は間違っていませんが、その手段が明確になっていません。ポリシーメイカー(政治指導者)は、自分もわからないときに往々にしてこのような表現をしがちです。

 そう考えられる理由は大きく2つあります。1つめは、中国の人口が近々減少に転じることが明確になってきたこと。これまでは、もともと多い人口が増加トレンドだったので、経済成長しないと雇用が確保できなかった。人口減少は労働力の低下にもつながるので、成長が鈍化することははっきりしています。2つめは人件費の上昇です。これに人民元高も加わり、輸出製造業の競争力が低下することが考えられるわけです。

人口減少と人件費の上昇によって従来の成長モデルが機能しなくなっているなかで、今後の基軸となるべき政策は何なのでしょうか。
柯氏

 技術革新です。研究開発に関する考え方のイノベーション(刷新)ということもできます。中国は技術・研究開発は不得意ではないといわれてきましたが、実際のところ多くの中国企業は独自技術をもっていません。
 たとえば昭和50年代の日本には、トヨタやソニー、シャープ、松下など、独自技術を背景としたブランドを確立していました。一方の中国はどうでしょう。技術的な"中国ブランド"は思いつきません。中国企業は他社の基礎技術をリ・アレンジしたような特許はもっているのですが、トヨタのハイブリッド技術のようなブランドを確立する革新的な技術はもっていないのです。
 基礎研究には時間もお金もかかります。中国では時間とお金をかけて技術開発をしても、知的財産が保護されていないのですぐにコピーされてしまう。基礎研究への投資が無駄になることが多いわけです。つまるところ知財が保護されていないことが大きな問題になっている。

中国政府は知財保護に動き始めているようですが。
柯氏

 そうですね、しかし問題なのは地方(自治体)政府なのです。知財保護を強化すれば、企業収益が減ることは目に見えています。だから、それぞれの地方政府は財源(税収)を確保するために目をつぶっている。また、中国は国有企業による独占市場が多いので、現状のままでも収益が約束されています。多くの中国企業にはイノベーションするインセンティブが機能しないのです。
 中国の中央政府と地方行政の構造は基本的に日本と同じ。しかし、中国は地方政府の人事権を中央政府(共産党)が握っています。中央政府が地方をコントロールできるはずなのですが、中央も地方財源は大事で、簡単には市長などを更迭できません。つまり、利益が今でも中央・地方における共通の原動力になっているのが現状です。
 解決策ははっきりしています。知財保護を強く進めることと国有企業を民営化すること。これが、言うは簡単で実行は気の遠くなるように難しい話なのです。

「中国は大国だが先進国ではない」という言い方があります。先進国への道筋は見えているのでしょうか。
柯氏

 結論からいうと、中国は変わらない。このままラテンアメリカの国のような中所得国になり続けるでしょう。中所得国とは、1人あたりの年間所得が5,000~10,000ドルの国。中国は8,000ドルに近付いていますが、このままで先進国にはなれません。前述の通り、先進国は技術革新に基づいたブランド力がありますが、中進国にはありません。中国もイノベーションをしないから10,000ドル程度の経済規模で推移することになるでしょう。
 私を含めたエコノミストたち専門家の言い方をすれば「中国は『中所得国の罠』にはまってしまう」ということ。これは、いわば中国のジレンマなのです。先進国になるためには、知財保護の強化と国有企業の民営化をしなければなりませんが、それは中国共産党のアイデンティティを危うくするものでもあります。自党の支持母体を切り捨てることにつながりますから。習金平国家主席はいまのところ、そこまでの決意はないようです。
 習主席の現状の立場を考えると、その考え方は間違っていないし、きわめて合理的な政策を実行しています。しかし、その政策には出口がありません。その点について我々は警鐘を鳴らしているわけです。

日本から見た投資先としての中国市場は、どのように理解したらよいのでしょうか。
柯氏

いま中国市場で起きているトピックを見るとヒントになるでしょう。
 中国本土で株式や不動産に莫大な資金を投資していたのが、香港最大の華僑系財閥である長江実業です。そのトップが李嘉誠(り・かしん)氏。彼はここ1年で、投資していた不動産や株式を"投げ売り"しています。それに加えて、長江グループの本拠もケイマン諸島へ移転しました。これは大きなベンチマークになります。
 もうひとつ、今年8月11日から3日連続で人民元が切り下がりました。一般的には中国政府が輸出拡大を加速させるためなどといわれていますが、本当の理由は違います。中国の外貨準備高はこの1年で4,300億ドルも減っており、海外へのキャピタルフライト(資本逃避)が進んでいます。中国経済の落ち込みによる資産価値の低下を避けたり、米ドル金利の上昇を見込んだりして、資金を米ドル資産へシフトさせているのです。中国人民銀行は元の切り下げで、キャピタルフライトに対応せざるを得ませんでした。
 キャピタルフライトのために株式を売却したので株価や不動産価格は暴落しました。景気も減速です。このような場合、PKO(株価維持政策)などは逆効果で、一旦下げ切らないと本格的な上昇トレンドには戻りません。株式市場は短期的にはゼロサムゲーム。大損する人がいたら大儲けしている人が必ずいる。そして、儲かっている人は静かにしているものです。それは誰か。華僑系の財閥です。当局は損失を被った個人投資家を含めて空売り規制などをしていますが、そのきっかけをつくったのは華僑系資本ですから、あまり効果は期待できないでしょう。
 逃げた資金がずっと戻ってこないわけではありません。市場環境を見ながらいつかは戻ってくるものです。景気循環が一巡するのに昔は20年といわれていましたが、最近は4年くらいのときもあります。米国だって今後、調整時期や景気後退期が来ます。そのころには、逃げた資金が中国市場に戻ってくる可能性は大いにあります。

中国への資金回帰の時期を含めて、中長期的な中国経済の展望をまとめてください。
柯氏

 大前提として、習主席が知財保護や企業の民営化を含めた政治改革を実行するかどうかにかかっています。現状での判断は「しない」。彼の現状での政策にはそれなりの合理性を認めざるを得ませんが、これまのでの枠組みのなかで進んでいくだろうという見方です。実際のところ中進国から先進国になれたのは、アジアで日本と韓国、中東でイスラエルぐらいです。すべて民主主義、自由経済の国であるのが歴史的な事実です。
 習政権が誕生してから約3年、残りの任期が7年です。その間、中国経済を大きく揺るがすようなリスクが存在するのでしょうか。これまでも「チャイナリスク」などと呼ばれてきましたが、大きな危機にはなっていません。一方の先進国では、サブプライムローン問題やリーマンショック、欧州債務危機など、数年にいちどくらいの頻度でクラッシュが起きています。なぜ中国でクラッシュが起きにくいのか。
 中国が一党独裁政治だからです。乱暴な言い方ですが、これが最も端的に表していると思います。自由主義経済は実は、クラッシュしやすい。アカウンタビリティ(説明責任)や公平性を重視するために面倒な手続きが必要で、政策実行に時間がかかります。一党独裁は、一部を犠牲にしながら全体最適を指向する政策をすぐに実行できます。責任追及も最後はうやむやにしながら。これをはっきりさせると共産党批判になるからです。
 中国では政権交代時に大規模な権力闘争が起きます。外交はもちろん、経済政策も大きな転換期になることは間違いないでしょう。習政権の交代時期は2022年。その2年前の東京オリンピック前後が闘争のヤマ場になり、先進国への政治改革を進めるかどうかの分水嶺になると思われます。


参考)中国株ETF
1322:上場インデックスファンド中国A株(パンダ)CSI300
1575:ChinaAMC CSI 300 Index ETF-JDR
1576:南方 FTSE 中国A 株50 ETF
1548:上場インデックスファンド中国H株(ハンセン中国企業株)
1309:上海株式指数・上証50連動型上場投資信託
1572:中国H株ブル2倍上場投信
1573:中国H株ベア上場投信


柯 隆(か りゅう)

富士通総研 主席研究員

中国南京市生まれ
1988年1月来日
同年 愛知大学法経学部入学
1992年3月愛知大学法経学部卒業
1992年4月名古屋大学大学院経済学研究科入学
1994年3月名古屋大学大学院経済学研究科修士取得
同年 長銀総合研究所国際調査部研究員
1998年10月 富士通総研経済研究所主任研究員
2006年7月より現職

著書
中国が普通の大国になる日」(日本実業出版社、2012年) 
チャイナクライシスへの警鐘」(日本実業出版社、2010年)
中国の不良債権問題」(日本経済新聞出版社、2007年)
「日中『歴史の変わり目』を展望する」(勁草書房、2013年、共著)
"Global Linkages and Economic Rebalancing in East Asia", World Scientific Publishing Company, 2012 (共著)
「中国の統治能力」(慶応義塾大学出版会、2006年、共著 ) など


掲載日:2015年10月21日

 
   
    

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