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エコノミスト加藤出氏が語る「世界的インフレ懸念の浮上と低金利が続く日本経済の現状」- 著名人インタビュー - 東証ETF活用プロジェクト 東証ETF

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東証ETF・ETN活用プロジェクト [ ETFがわかれば世界がわかる 著名人にインタビュー ]

【第16回】

エコノミスト加藤出氏が語る

「世界的インフレ懸念の浮上と低金利が続く日本経済の現状」

間もなく新年度入り。欧州のソブリンリスク問題、中近東の政情不安など、さまざまなニュースが浮上するなか、世界の金融市場は何を注目点とし、どういう動きをするのか。今回は東短リサーチのチーフエコノミスト、加藤出さんにご登場いただきました。加藤さんは、日銀ウォッチャー、FEDウォッチャーとして知られ、国内外の金融情勢には非常に詳しくいらっしゃいます。先日まで8ヶ月間にわたり、イギリスに長期出張されていました。外から見た日本経済の状況も含め、新年度入りする世界中の金融市場の動向について伺います。
先般までイギリスに出張されていましたが、イギリスといえばリーマンショックで最も大きなダメージを受けた国のひとつだと思います。現状、イギリス経済の回復具合は、どうでしょうか。
加藤氏
エコノミスト加藤出氏
エコノミスト加藤出氏
昨年の選挙でキャメロン首相が新しいリーダーとして誕生し、これまでの労働党、保守党という二大政党時代が終わり、党と連立を組んで政策運営を行っていますが、今のイギリスにとって喫緊の課題は、やはり財政再建問題でしょう。
今回の財政再建は、歴史的というに相応しいくらい、猛烈な改革です。もちろん、英国民にとっても、激しい痛みが伴うものになります。公務員のリストラ、国民への補助金カットなどを通じて、2015年をめどに歳出の4分の1をカットするという目標が掲げられていますが、英国民の間には、「このまま政府債務が累増したら、国が破綻する」という危機感が強かったようです。今年1月には付加価値税(VAT)が17.5%から20%へ引き上げられました。
キャメロン首相は昨年の選挙で、将来世代のために財政再建を行う必要があると訴え、支持を得ました。財政再建にとって、政治のリーダーシップが如何に重要かを感じさせられます。あるロンドンの有権者は、「国の改革を行う政治家は若い方が信頼できる。彼らは自分の幼い子供たちのことを考えるからだ」と言っていました。確かに、組閣されたときは、キャメロン首相44歳、クレッグ副首相43歳、オズボーン財務大臣39歳、アレクサンダー財務副大臣38歳という若さでした。
この超緊縮財政は回復途上の英国経済にとっては通常は強い逆風となります。しかし、将来不安が低下すれば、投資や消費が活発化する部分もあるはずだという説もあり、今後の成長率が注目されています。昨年来、英国のインフレ率は、2%というイングランド銀行のインフレ目標を大幅に上回っています。この1月は4%でした。年央にかけてまだ上昇すると予想されており、インフレ目標が形骸化しているという批判が高まっています。日本ではインフレ目標を過大に評価する声がよく聞かれますが、英国ではその評判は悪化しています。
インフレ目標を達成するには金利を引き上げて景気回復にブレーキをかけるべきだという主張がイングランド銀行内で増えてきましたが、超緊縮財政の影響もあって英経済は磐石ではないとキング総裁は慎重なスタンスをとっています。イングランド銀行はジレンマに悩んでいるといえます。
今のインフレ率を押し上げているVAT効果や、ポンド下落効果といった一時的な特殊要因は来年は剥がれてくるでしょうから、来年以降は、インフレ率が低下してくる可能性が高いと思われます。また、いくつかのイギリスの大手銀行は金融危機のあとに、事実上の国有化状態になっています。金融システムも回復途上ですから、仮に5月頃から利上げが開始されても、本格的な金融引き締めにはならず、数回で止まるでしょう。英国民は、財政がさらに悪化すれば長期金利が上昇し、住宅ローン金利の上昇を通じて自分たちの生活に悪影響が及ぶということを、経験で知っていました。そのため、しっかりした財政規律が国力につながるというコンセンサスが日本より得られやすかったようです。目先の景気にとっては厳しい場面もあると思いますが、いずれ財政再建が奏功し、景気は上向いていくと思います。
インフレ懸念といえば、ユーロ加盟国の間でもインフレに対する警戒感が強まっています。今後、ユーロの金利の上昇していくのでしょうか。
加藤氏
2月のインフレ率は2.4%の上昇でした。現在、ユーロ圏内においては、インフレ率を2%未満にするというのが目標値ですので、イギリスと同様、ユーロ圏もインフレ懸念が浮上していると見て良いでしょう。特にユーロ圏ではドイツ経済が絶好調であり、リーマンショック前のピークを越えています。ユーロ安の恩恵だけでなく、中国など新興国の富裕層が、ポルシェ、ベンツ、BMW、アウディなどを大量に購入するため、空前の好業績となっています。そのため賃金も上昇ぎみで推移しています。
ここでポイントになるのが「セカンドラウンド効果」と呼ばれるものです。これは食糧や資源・エネルギー価格の上昇が、連鎖的に賃金上昇に波及していくことを指しています。基本的に、食糧や資源・エネルギー価格が上昇するだけであれば、生活コストが上がり、消費が抑制されてインフレ懸念も後退するはずなのですが、経済活動が活発で賃金が上昇すると、逆に消費が加速され、スパイラル的に物価が上昇していく恐れが生じてきます。
それが起き始めたら、ECBは利上げするとトリシェ総裁は常々言っていました。3月3日のECB理事会の後に彼は4月利上げの可能性を強く示唆しました。金融市場に混乱が起きなければ、実施するつもりのようです。さすがに世界中の金融市場参加者が仰天しました。「ギリシャ、アイルランド、ポルトガルが大変なときに、そんなに急ぐ必要があるのか?セカンドラウンド効果はドイツ以外でも起きているのか?」と。「哲学」の違いが影響している面があるようです。過去のハイパーインフレの記憶から、物価の安定をより重視したがる中央銀行家が北ヨーロッパには多いのです。
ところで、トリシェ総裁が10月に退任しますが、その後継者レースの有力候補のひとりに、ドラギ・イタリア中央銀行総裁がいます。一般にヨーロッパでは、イタリア人はインフレに寛容と見られています。彼はそのステレオ・タイプのイメージを覆したい面があるのか、タカ派的な発言を最近行っています。ECBの中で、利上げ議論にストップをかける人がいない感じもあります。
ECBが利上げを開始するなら、ユーロ周辺国の国債を安定させるためのEFSFやESMといった制度を拡充して、市場に安心感を与える必要がより高まります。それは結局はドイツの納税者のコストになりますが、メルケル独首相率いる連立政権はドイツ国内で支持率を落としているため、動きが鈍らないか心配されます。私は長期的にはユーロは生き残るだろうと期待して見ていますが、短期的には波乱要因がまだまだ残っています。
そもそも英国やユーロ圏を襲った混乱のもとは、米国発のリーマンショックですし、このところのインフレ懸念の背景には、中国をはじめとする新興国の経済発展があると思います。米国と中国。この2大国の金融情勢はどうですか?
加藤氏
エコノミスト加藤出氏
まず米国ですが、FRBのいわゆる量的緩和その2=QE2が、世界的な食料価格の高騰を招いているという批判は増加しています。貧困・飢餓問題で著名なジェフリー・サックス・コロンビア大学地球研究所長は、「今すぐバーナンキ議長はQE2を止めるべきだ」と非難しています。批判を受けて、FRBの一部の地区連銀総裁からは、「FRBは世界経済の動向にも注意を払うべきだ」「グローバルで見た需給ギャップはプラスになっている可能性があるため、QEを続けると、世界経済が過熱してしまう」という声も出ています。しかし、バーナンキはそういった議論に与するつもりはないようですので、QE2が途中で停止されることはないと思われます。
これまでバーナンキはデフレを警戒する姿勢を示していましたが、さすがに最近変わってきました。近いうちにFOMC声明文で、インフレ率の低下は底を打ってきたという見通しを出すでしょう。
そうであれば、今年6月末までに行われる予定の、6,000億ドルにも及ぶ米国国債買付によるQEⅡで米国の金融緩和は終わり、巷で噂されていたQEⅢはない、という見方に至ります。
ただ、もうこれ以上の金融緩和はない、QEⅢは実施されないということが、即、利上げシナリオと市場に誤解されると、問題がややこしくなります。株価にも悪影響を及ぼすことになるでしょう。FRBは情報発信を上手くやる必要性に迫られています。
今のところ、米国国内のインフレ率はそれほど高くはないので、仮に利上げが行われるとしても、それは年明け以降の話になるでしょう。何しろ米国の家計部門は、今も住宅バブル崩壊後のバランスシート調整局面にありますから、個人消費を中心にして、本格的に景気が回復していく段階には、まだ到達していません。また、増加した失業者の多くは建設部門でした。前のような住宅建設ブーム、リフォーム・ブームが来ることは当面ありませんので、彼らを別の業種に就かせるように、訓練を行う必要もあります。したがって、利上げまでにはしばらく時間がかかるでしょう。
一方、中国ですが、現状のインフレ率は4.9%ですが、これを何とか4%程度に抑えたいというのが、中国金融当局の考え方です。
何しろ、一段とインフレが加速したら、中国の中低所得者層の生活が苦しくなり、北アフリカに見られるような国民の騒乱が地方で起きる恐れが生じてきます。
しかし、あまり強くブレーキを踏んで景気が大幅にスローダウンすると、これもまた国民の不満を招く恐れがあるため、成長率の目標は今年は8%となりました。今の中国は、非常に難しい金融調整のかじ取りが要求されます。
中国国内の過剰流動性を適切にコントロールして、インフレを制御するには、金利引き上げや銀行ごとに個別指導する差別的準備預金率引き上げに加え、外為介入を徐々に減らしていく必要もあるでしょう。中国人民銀行のバランスシートは凄まじい勢いで膨張してきました。外為市場で人民元売り・外貨買い介入を続けてきたため、同行の外貨保有は爆発的に増え、一方で銀行への流動性供給が激増しました。先進国の中央銀行でGDP比で見て最も巨大な中央銀行は日銀なのですが、人民銀行はそれを遥かに上回っています。
図表1
いずれにしても、中国をはじめとする新興国の需要の強さはしばらく続くでしょうから、トレンドとしてインフレ圧力は当面、続くと見るのが妥当ではないでしょうか。
世界的にはインフレ圧力が強まり、いつ利上げに転じるかということを議論しているわけですが、こうしたなかで日本はまだ低金利が続くのでしょうか。
加藤氏
ECBやイングランド銀行が利上げを始めたら、日銀も追随したがるのではなかと疑う人もいますが、今はその気配は全くありません。2006年1月の消費者物価の水準を100として、その後の変化を見ると、イギリスの現在の物価は、2008年夏頃の食料・原油価格高騰の際の水準を既に大幅に上回っています。ユーロ圏は2008年のピーク時を現在はやや上回っています。米国は2008年のピーク時並みに今なっています。
図表2
一方、日本は、2008年よりもまだ低い状態にあります。欧米とは全く状況が違います。日本銀行は消費者物価指数が1%になることが展望できるようになるまでゼロ金利政策を継続すると宣言していますから、政策金利が上昇局面に入るのは、しばらく先の話になるでしょう。
日本の場合、長年に亘ってデフレ経済が続いてきたわけですが、最近は徐々にインフレ率のマイナス幅が縮小し、デフレから脱却できる可能性も、ほんの少し見えてきました。4月以降は、特殊要因が剥げることもあって、日銀が注目する生鮮食品を除く消費者物価指数が一旦プラスになるでしょう。ただ、今年8月には消費者物価指数の基準改定が行われるため、恐らくその技術的な影響によって、消費者物価指数は0.5%程度下がります。また、賃金が上昇しなければ、国民の購買力は高まらず、物価は上昇しにくいですが、大手企業は賃上げに慎重です。つまり日本の物価は当面、上昇しにくい環境が続くので、日銀の利上げは2013年の春以降になると見ています。
日銀の政策金利、およびそれに連動し易い市場の短期金利はゼロ%に近い状態が当面続くでしょう。膨大な債務も抱える政府も日銀に超低金利政策の継続を強く望むでしょう。しかし、長期金利は基本的には市場の需給メカニズムで決まります。懸念されるのは、日本の財政事情です。長期金利水準が上がったら、政府の利払い費がどんどん膨らみ、財政の運営が更に困難になる恐れがあります。つまり、国債の利払い負担が重くなる一方、景気対策やインフラ整備に回す資金が不足してしまい、柔軟な財政政策が講じられなくなる恐れがあります。
日本国債の格付けが下げられました。日本国債のソブリンリスク問題が浮上する恐れはありますか?
加藤氏
短期的には、日本国内には十分な貯蓄がありますから、そう簡単に日本国債による資金調達が困難になるような事態に追い込まれることはないでしょう。日本にある預金が大規模に海外にどんどん流出しているという話は今は聞きません。
ただ、これから高齢者がどんどん増えていったら、貯蓄の取り崩しが本格化します。そうなった時、果たして今と同じように、日本国債の大半を国内で消化することができるのかどうか。やはり、どうしても海外の投資家に買ってもらわなければならない日が来るでしょう。
そこで問題になるのが、日本の財政赤字です。日本の財政赤字は先進国のなかで最悪の水準にありますから、もし海外の投資家に日本国債を買ってもらおうとするならば、今の金利水準では無理でしょう。プレミアムといって、上乗せ金利を払う必要があります。それが悪性の金利上昇を招く恐れがあるので、出来れば少しずつでも良いから、財政赤字を減らす努力を示す必要があります。ヨーロッパの人々は血の滲むような努力で財政再建を進めていますから、なお更、日本の危機感のなさは際立って見えてしまいます。私が昨年ロンドンで下宿していた家のおばさんは、日本の消費税が5%だと話すと、そんな低い国があるはずがないと、信じようとしませんでした。
少なくとも、あと10年以内には、こうした預貯金の取り崩しが本格化してくるでしょう。もう、あまり時間はないのです。日本の財政再建は、もはや待ったなしというところまで来ていると考えた方が良いでしょう。
取材日:2011年月03月10日
掲載日:2011年月04月06日
加藤 出(かとう いずる)氏プロフィール
加藤 出(かとう いずる)氏
東短リサーチ取締役チーフエコノミスト。1988年4月東京短資(株)入社。金融先物、CD、CP、コールなど短期市場のブローカーとエコノミストを2001年まで兼務。2002年2月より現職。 2002年に米国ニューヨークの大和総研アメリカ、ライトソンICAP(Fedウォッチ・シンクタンク)にて客員研究員。マネーマーケットの現場の視点から各国の金融政策を分析している。2007~2008年度、東京理科大学経営学部非常勤講師。2009年度中央大学商学部兼任講師。
著書に「日銀は死んだのか?」(日本経済新聞社、2001年)、「新東京マネーマーケット」(有斐閣、共著、2002年)、「メジャーリーグとだだちゃ豆で読み解く金融市場」(ダイヤモンド社、2004年)、「バーナンキのFRB」(ダイヤモンド社、共著、2006年)。
主な連載に、週刊ダイヤモンド「金融市場異論百出」、日経ビジネス・オンライン「加藤出の日銀ウォッチ」、朝日新聞「ビジネス書評」、週刊東洋経済「マネーセンター点描」、週刊金融財政事情「新BOJウォッチング」、日経ヴェリタス「異見達見」、月刊マネージャパン「金利」など。また、テレビ番組での解説や各種講演も行なっている。



 
   
    

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