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マーケットエコノミスト上野泰也氏が語る「日本の財政問題とマーケットへの影響」 - 著名人インタビュー - 東証ETF活用プロジェクト 東証ETF

 

東証ETF・ETN活用プロジェクト [ ETFがわかれば世界がわかる 著名人にインタビュー ]

【第17回】

マーケットエコノミスト上野泰也氏が語る

「日本の財政問題とマーケットへの影響」

3月11日に起こった東日本大地震は、地震と津波が襲った地域の人々の生活に大きなダメージを及ぼしました。そして、それとともにマーケットにも激震が走りました。円は1ドル=76円台という過去最高値を更新。加えて、東京電力の原発事故によって、日本経済の見通しが一段と不透明になり、株価の先行きにも影を落としています。新年度入りしたマーケットの行方はどうなるのか。みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也さんにお話を伺いました。
まず、日本経済の現状分析からお願いできますか?
上野氏
上野泰也氏
みずほ証券チーフマーケットエコノミスト
上野泰也氏
日本経済は昨年秋から踊り場と言われていました。理由は、エコカー補助金の終了、円高、IT関連の在庫調整が重なったからですが、その小雨が止んで、徐々に曇りになってきたというのが、3月上旬までの経済情勢でした。
決して好調とは言えませんが、徐々に快方に向かいつつあるというというところで、今回の震災が起こったわけです。これが日本経済に及ぼす影響は、非常に大きなものになります。何しろ、経済指標ひとつを見ても、これから発表されてくる3月時点の数字は、2月までのものとは、全く連続性が断たれてしまうくらい、大きなギャップが生じると考えられているくらいです。
では、この震災が日本経済にどのような影響を及ぼすことになるのかを考えてみましょう。マイナスの影響は主に2つあります。
第一に、物流停滞と電力不足(計画停電など)の影響です。これによって、かなりの程度、企業の生産活動は下押しされていると思います。3月の自動車生産台数は、前年同月比で半減という集計もあるくらいです。この落ち込みは、リーマンショック以来の大きさになるでしょう。
第二は、消費マインドの悪化です。被災地の消費マインドが悪化するのは当然のことですが、このところ、被災地から遠く離れている関西方面の消費マインドまでもが冷え込んできています。もちろん、消費を悪化させる要因はマインド面だけでなく、物理的な制約があるのも事実です。お店の休業や営業時間の短縮、物流の問題でモノ不足が生じていることに加えて、ディズニーランドの休園なども、消費を抑え込む物理的制約に含まれます。消費マインドの悪化については、電力不足による生産面の悪影響以上に、日本経済にとっては長期的な問題になると思います。
これらの要因が重層的に重なり合っており、日本経済は今、非常に厳しい局面にあるわけですが、マーケットでは、特に株価にとって、ネガティブな材料になります。何しろ企業の生産活動に加え、個人消費も大きく落ち込んでいるのですから、これが回復基調をたどるようになるには、まだ相当の時間を必要とするでしょう。
一部では復興需要があるのではないかという意見もありますが。
上野氏
補正予算を導火線とする復興需要は、日本経済そのもの、あるいは株価にとって、確かにポジティブな材料にはなります。恐らく2011年度の下期、つまり2011年10~12月期もしくは2012年1~3月期くらいには、効果が統計上ではっきり見えてくるのではないかと考えています。
ポイントとなる補正予算ですが、基本的な建てつけとして、1次補正予算、2次補正予算までは、ほぼ固まりつつあるようです。1次は4月中の提出を目指している瓦礫の撤去と仮設住宅を主な内容とするもので、おそらく4兆円規模の補正予算です。2次は6月頃に編成されるもので、これは本格的な復興・復旧を目的としていますから、より規模が大きくなります。つまり公共事業が伴うもので、この2次補正予算の対応として、どうやら国債増発もあるのではないかと見られています。
実際に2次補正予算の効果が出てくるのが、年度下期、つまりどれだけ早くても10~12月期あたりにならないと、具体的な効果が見えてまいりません。ただ、かなりの大型補正予算が組まれるでしょうから、復興需要に関連する企業、たとえば建設関連や資材関連の企業の業績にとっては、ポジティブな材料になります。
問題は、冒頭で述べたネガティブな材料と、ポジティブな材料との差し引きがどうなるのかということですが、差し引きでマイナスになると思います。2011年度の日本の経済成長率は、マイナス成長になるようなことはないと考えていますが、それでもおそらくプラス0%台の厳しい数字になるでしょう。株価にとっても、ファンダメンタルズ面や原発事故という日本固有の悪材料が追加的に浮上してきたということで、マイナスの力ということになります。
大規模な補正予算を組むにしても、やはり財源の問題が浮上してきます。財源の捻出をどうするつもりなのでしょうか。
上野氏
上野泰也氏
政府としては、なるべく国債の増発を避けようと考えているようですが、与党・政府のなかには10~20兆円規模の資金が必要になるという意見もあります。国会でも話題になりましたが、震災復興向けの国債を発行し、それを日本銀行に引き受けさせろという意見も一部で浮上してきています。
これは先進国の政策としては、明らかに禁じ手と言っても良いでしょう。目先の財源は確保できるかも知れませんが、それによって、さらに大きな問題を引き起こすリスクがあります。
私は、日本経済について中長期的には悲観論に立っています。中長期的な人口パワーの減衰、慢性的なデフレ、持続可能性がどんどん後退している財政問題、というように問題点が山積みになっているわけですが、今回の震災によって、特に財政需要が一段と高まったことによって、日本の危機がより手前に引き寄せられたと考えています。
この財政問題に対して「乾坤一擲」と言いますか、一発逆転狙いのルール破りの過激な政策を行ってしまうと、日本固有の悪材料がさらに拡大してしまって、海外諸国が日本を見る眼というものが、今以上に厳しくなってしまう恐れがあります。
そうなると、国債だけでなく、「そんな国の株式に投資できるのですか?」ということになり、世界の株式市場のなかで、日本の株式市場だけが割安な水準に放置されたままになってしまいます。したがって、今の日本にとって非常に大事なのは、危機の中ではあっても、財政の規律と日本銀行の信認を、しっかり維持することだと思います。
日本国債の格下げリスクはありますか?
上野氏
いずれはあるでしょう。今回の事態は格付け会社も全く想定していませんでしたから、補正予算の組み方次第では、日本国債のさらなる格下げリスクが浮上してくることも、十分に考えられます。
だから、これはひとつの試金石になるのではないでしょうか。日本がしっかりと財政規律を守れるのかどうか、中長期の財政再建路線が維持されるのかどうかなど、いろいろな面が問われてくると思います。
ここで安易に財政再建路線を棚上げするようなことになれば、あるいは際限のないバラマキ路線が行われるようなことになれば、日本国債の格付けを引き下げようという動きが、格付け会社のなかで、急速に出てくるでしょう。
そうなると、外国為替市場では円が売られます。これは、まさに悪い円安ですから、恐らく日本の輸出企業にとっても、円安だから業績好転で株高というようなシナリオにはならないと思います。日本そのものに対する見方がより慎重になった結果としての円安ですから、円安=株高というロジックは通用しません。
いささか大上段な物言いになってしまい恐縮ですが、今回の震災とそれに関連したさまざまな問題点というのは、もう被災地の復興だけでどうにかなるという次元ではなく、日本という国そのものの在り方、将来像が問われる大事な局面だということです。足元の復興・復旧はもちろん大切ですが、政策当局者はそこだけを見るのではなく、一方でもっと中長期的な視点で国の在り方をしっかり見つめ、それに対応できる政策を打ち出していくことが、はるかに重要なのではないでしょうか。
仮に、日本国債の格付けがもう一段階、引き下げられるということになると、どのような影響が生じてくるのでしょうか。
上野氏
上野泰也氏
格付け会社によって差はありますが、S&Pでは現在、AA-の水準ですから、もう一段下げられるとA+になります。これは、海外の投資家が日本の国債に投資しようとした時のハードルを引き上げることになります。
恐らく5年前後あたりから、日本の家計のお金だけで、日本の国債、地方債の消化を賄えなくなる恐れがあります。その時、海外から投資してもらおうとした場合、日本国債の格付けが下がるというのは、やはりどうにも具合がよろしくありません。すぐに影響は出てこないと思いますが、真綿で首を絞められるように、徐々に悪影響が生じてくるはずです。
それまでの猶予期間が今から5年前後だと私は見ています。5年前後の根拠は、家計の資産から負債を引いてネットの資産額を出し、それを国債・地方債の残高と比べて、両者の隙間の部分が、あと何年間、国債・地方債を発行すると埋まるかということで試算すると、その猶予期間が4~8年程度となり、大まかに言えばだいたい5年前後ということになります。そして、今回の大型補正予算によって、その猶予期間がさらに短縮化することも、十分に考えられるのです。
そうなると、悪い金利上昇リスクが高まってきます。といっても、一気に長期金利の水準が跳ね上がるのではなく、毎年、毎年、日本の長期国債に少しずつリスクプレミアムが上乗せされていく、そんな形での金利上昇になるのではないでしょうか。
そして、これは経済のファンダメンタルズに基づかない金利上昇ですから、景気に対してもネガティブですし、財政に対しても利払い費が増えるというという意味でネガティブです。いずれにしても、日本の財政には、もうほとんど余裕が残されていないという認識を持つことが大切です。
当面、日本の景気に対しては悲観的ですか?
上野氏
いえ。2011年度については冒頭でも申し上げましたが、マイナス成長に陥ることはないでしょう。微々たるものですが、成長はします。その意味で、短期的には一応は楽観ということなのですが、長い目で見ていくと、この国の経済の活力は、どんどん減退していますので、私は超悲観論です。だからこそ、抜本的な政策を打ち出して、経済の活力を高めていかなければなりません。
その方法として、観光政策、移民政策、そして本筋である少子化対策の抜本的な強化を講じて、滞在人口(日本の国土に滞在している人口)が増えるような政策を真剣に考えていく必要があります。名目GDPベースで、日本経済が健全に回復すれば、税収も自然と増えていきます。そうすれば財政問題も徐々に解決へと向かうのです。
そして、観光政策でも移民政策でもそうですが、多くの外国人が日本に来るようにするためには、安全、安心な日本というイメージを回復させなければなりません。
福島における原発事故は、まさにこの点において、日本の安全神話を突き崩すものでした。事態の早期収拾が出来なければ、日本に来る外国人が減るだけでなく、日本から逃げ出す外国人がどんどん増えていくことになります。少しでも早く安全な日本を確立し、人口問題に終止符を打つ政策を実行できれば、日本経済の長期的衰退と破局のような状況の到来は、なんとか避けられるのではないかと考えています。
掲載日:2011年月04月14日
上野 泰也(うえの やすなり)氏プロフィール
みずほ証券 金融市場調査部 チーフマーケットエコノミスト
上野 泰也(うえの やすなり)氏
1963年2月生まれ(A型・水瓶座)、東京都国立市出身
1985年上智大学卒(文学部史学科首席卒業<西洋現代史専攻>)
85年 同学士入学(法学部法律学科 → 公務員合格で中退)
85年 国家公務員1種試験 行政職に名簿順位1位で合格
86年 会計検査院に入庁、旧建設省等の会計検査に従事
88年 富士銀行に入行、為替ディーラーとして勤務
90~94年 為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任
94年11月 富士証券設立に伴い、チーフマーケットエコノミストに就任~ 内外経済動向・金利・為替分析、BOJウォッチなどを担当
2000年10月 みずほ証券設立に伴い、投資戦略部 チーフマーケットエコノミスト就任を経て現職



   
    

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