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田代尚機氏が語る「中国経済の未来」 - 著名人インタビュー - 東証ETF活用プロジェクト 東証ETF

 

東証ETF・ETN活用プロジェクト [ ETFがわかれば世界がわかる 著名人にインタビュー ]

【第18回】

田代尚機氏が語る

「中国経済の未来」

相変わらず高い経済成長率を維持している中国経済。ただ、一方では貧富の格差が広がり、インフレリスクも浮上しています。また、中長期的には、少子高齢化が経済に及ぼす影響も懸念されるなど、マイナス要素も想定されています。果たして、中国経済はこれらの問題点を解決できるのでしょうか。
今回はTSチャイナ・リサーチ代表取締役の田代尚機氏に、中国経済の問題点と、今後の展望についてお話を伺いました。
バブルやインフレなどが懸念されている中国経済ですが、当面の成長シナリオは変わらないと見て良いのですか?
田代氏
TSチャイナ・リサーチ代表取締役 田代尚機氏
TSチャイナ・リサーチ
代表取締役 田代尚機氏
中国経済の現状に対する見方は、香港の投資家と中国本土の投資家との間で、若干の違いが生じてきています。ちなみに香港市場は、欧米の機関投資家が中心となる市場ですから、香港の投資家の見方とは、欧米人の見方と捉えてください。
まず香港の投資家は、非常にオーソドックスな見方をしており、先行きについては弱気です。なぜなら、今の中国経済はインフレの影響もあって利上げサイクルに入っているからです。中国の金融当局は、金融引締め政策を行っていますが、恐らく、ここしばらくの間、消費者物価指数は上昇傾向をたどると考えています。物価が鎮静化しない限りは利上げも続行されるため、それが景気の後退要因になると見ています。
一方、中国本土の投資家は、まだ利上げが継続されると見ている点では香港の投資家と同じなのですが、そろそろ峠を越えたと考えています。昨年10月、12月、今年の2月、4月に行われた利上げに加え、昨年11月以降、毎月のように行われている預金準備率の引き上げが、そろそろ効果を表してくるのではないかという期待感が高まってきています。両者の見方の違いからも分かると思いますが、中国本土の投資家の方が、中国経済の未来について楽観的な見方をしています。
どちらの見方が正しいのでしょうか。
田代氏
中国本土の投資家の見方が正しいと思います。特にこれから注目されるのは、第12次五カ年計画の内容です。これは、戦略的新興産業の育成・発展や、所得の引き上げ、GDPに占める個人消費の拡大、地域開発の促進などによって構成されているのですが、この計画を実施していくことを通じて、今年の経済は下支えされていくでしょう。
また、金融引締め政策に対して積極財政政策というポリシーミックスを行っていることも高く評価されます。
総じて、中国経済は堅調であり、ここから株価も上昇基調に入っていくものと思われます。実際、上海総合指数の動きを見ても、1月25日に底値をつけてからは、上昇トレンドに転じています。中国経済の成長が確かなものとなり、本土市場が本格的な上昇相場となれば、香港の投資家にとって、それはポジティブサプライズであり、香港市場も遅れて上昇相場入りする可能性があるでしょう。
不動産バブルを懸念する声もありますが?
田代氏
日本の不動産バブルになぞらえる声もありますが、中国の不動産価格上昇は、日本の不動産バブルとは別物と考えております。
中国で不動産価格が上昇しているのは、いわゆる投資用の高額物件ばかりです。これに対して、実際に住むことを目的にした住居用物件は、政府もこれからどんどん増やす方向に動いています。今後5年間で3,600万件に及ぶ、日本で言えば公団住宅のような政府主導による住宅を造ることによって、価格の安い物件の比率を全体の20%まで高める方針を打ち出しています。
中国で不動産バブルが懸念されたのは、今に始まった話ではありません。2003年から度重なる規制が行われており、今では不動産向けの銀行貸出も制限されています。政府がきちんと管理する限り、不動産バブルは制御できるでしょう。
つまり、日本のように不動産価格が上がり切るのを放置しておきながら、いきなり急激な利上げと総量規制によってバブルを潰すようなことはしていません。状況が異なります。
人民元の切り上げ圧力は、中国経済にとってマイナスではありませんか?
田代氏
TSチャイナ・リサーチ代表取締役 田代尚機氏
2003年以降、米国は中国に対して、人民元の切り上げ要請を行っています。実際、それにともなって中国政府は、漸進的に人民元の上昇を容認してきました。
これまで人民元は相対的に安い水準にあったのは事実です。人民元安は、中国が世界の工場として、安い生産コストを武器に製品を輸出するうえでは、非常に有効でした。しかし、中国が今のような形での輸出大国であり続けるのは、さまざまな面で困難になってきています。
2008年のリーマンショック以降、米国では消費がなかなか伸びにくい状況にあります。中国は、米国向け輸出の比率が大きいので、米国の消費が回復しないということになると、輸出が伸び悩み、それが中国経済にとって、ジワジワとダメージを及ぼすことになります。その状況を打破するためには、内需拡大を進めていかなければなりません。
中国はこれまで安い労働コストを武器に、労働集約型産業を中心に輸出を伸ばしてきましたが、政府は今後、内需主導型経済へ転換する方針です。政策として最低賃金を引き上げることで消費を強化する一方、地域開発を加速することで高水準の設備投資を維持する考えです。
つまり、これまでのように輸出促進を目的にした人民元安は必要無くなります。もっとも、一気に内需主導型経済に切り替えるのは難しいので、しばらくの間、政府は漸進的に人民元を上昇させることになるでしょう。
中国政府は、将来の人民元高に備えて、さまざまな政策を打ち出しています。人民元の国際化は、そのひとつです。
今、人民元の国際化に向けて、いくつかの実験が行われています。たとえば、人民元で貿易決済が出来るようにすることや、人民元での運用がしやすくなるように、香港で人民元建て金融商品の自由化などを行っています。これらの政策が順調に進めば、人民元は中国経済にそれほど負担をかけることなく、上昇傾向をたどっていくことになるでしょう。
また人民元の水準が上昇したとしても、むしろそれが中国経済にとってプラスになる面もあります。人民元が上昇すれば、世界中でさまざまなものを、有利に買い進められるようになります。特に、中国は経済発展に伴って資源が不足するでしょうが、人民元が上昇すれば、海外から資源を買いやすくなります。これは、中国経済にとってプラスになるはずです。
中国経済に死角はないのでしょうか。
田代氏
政治不安が問題です。中国共産党も、ジャスミン革命の波及を恐れているでしょう。確かに中国経済は目覚ましい発展を遂げていますが、一方で貧富の格差が広がっています。今の状況に不満を持つ人も中にはいるでしょう。そうした民衆の不満が爆発するようなことになれば、中国経済は分裂の危機にさらされます。
こうした不満を爆発させないようにするためにも、中国政府は国民の生活を豊かにする必要があります。
ただ、この点が共産党一党独裁のメリットでもあるのですが、中国政府は国民のことだけを見ています。もちろん、逆の言い方をすれば、自国民のこと以外には関心がないということにもなりかねませんが、国民からすれば、常に自分たちのことを考えてくれる政府がいるというのは、非常に心強いでしょう。中国政府が自国民の幸福を最優先して政策を出し続けるのであれば、国内の不満も徐々に収まってくると期待できます。
少子高齢化が日本以上のスピードで加速していきます。経済にとってデメリットではありませんか?
田代氏
日本では、少子高齢化社会の到来によって、経済力が衰退すると懸念されていますが、中国では、そうした心配は無用だと思います。というのも、人がたくさん余っているからです。
中国は、驚くほど産業構造が非効率です。たとえばセメント会社ひとつをとっても、中国国内には数千といった単位で小規模メーカーが存在しています。日本では、セメントメーカーは整理統合が進み、現在、数社に統合されています。
中国の場合、非常に多くの業界で、再編が進んでいません。今後多くの産業で業界再編が進み、効率化が進むのであれば、人が足りなくなるということはないでしょう。農村には8億人の人たちが暮らしており、そうした人たちが工場労働者にシフトする余地は大きいと思います。少子高齢化が加速したとしても、それによって経済活力が後退するといったことを、それほど心配する必要はないでしょう。
中国の株価は今後どうなりますか?
田代氏
TSチャイナ・リサーチ代表取締役 田代尚機氏
中国本土市場について言えば、昨年のパフォーマンスはよくありませんでした。理由は、インフレ懸念と不動産規制によって、株価の上値が押さえられたからです。
中国企業のバリュエーションは予想PERで17~18倍と、他の市場と比べれば高いと思うかもしれませんが、本土市場の歴史的な水準と比べると、随分と割安です。しかも、業績は増益基調が続いています。インフレ懸念は多少残るでしょうが、積極財政やそのほかの政策の後押しがあるので、株価は上昇傾向をたどっていくでしょう。
また香港市場については、前述したように欧米の投資家が市場参加者の多くを占めるマーケットなので、当面は、日本の巨大地震、中東・北アフリカ問題など、国際情勢の変化に影響を受ける可能性があります。国際情勢の悪化によってもたらされる原油価格の上昇は、欧米でもインフレ要因となるでしょう。今後、さらに原油価格が上昇するとなると、やはり株価にとってはマイナス要因となるでしょう。
とはいえ、ファンダメンタルズ自体は決して悪くないので、中国を含め世界各国がこのリスクを上手く乗り切ることができれば、香港の株式市場も、本土市場につれ高し、堅調に推移するだろうと思います。
掲載日:2011年月04月18日
田代 尚機(たしろ なおき)氏プロフィール
田代尚機氏
1958年愛知県出身。1984年東京工業大学大学院理工学専攻修了。1984年から2003年まで(株)大和総研に勤務。入社後、ベンチャー企業に関する投資審査、中堅企業への経営コンサルティング、官庁でのマクロ調査などを経験。1991年から1994年まで、日本株アナリストとして小売、金融を担当。1994年から2003年にかけて、大和総研の代表として北京に駐在。引受リサーチ、中国経済担当エコノミスト、中国株担当アナリストとして活動。2003年10月から2007年2月まで、内藤証券(株)に勤務。中国部長としてプロモーションを中心に中国ビジネス全般を担当。2007年3月、出資者の一人としてリード・リサーチ・アンド・プロダクツ(株)を設立。証券会社向けに中国株ビジネスに関するコンサルティングを行う。2008年5月、独立、現職。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
中国株、中国経済に関するセミナー・講演、メディアへの出演、投資雑誌、経済雑誌、経済紙への寄稿多数。経済成長と国際収支(共著、2003年、日本評論社)、DVD中国株入門(2004年、メモリーバンク社)、レッド・センセーション好機到来!今こそ中国株投資(2006年、角川SSC社)、中国株厳選300銘柄(編著、2006年、東洋経済)、中国株黄金の10年(共著、2010年、小学館)など著書多数。



   
    

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