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フィデリティ退職・投資教育研究所所長野尻哲史氏が語る「退職金の運用先は?」 - 著名人インタビュー - 東証ETF活用プロジェクト 東証ETF

 

東証ETF・ETN活用プロジェクト [ ETFがわかれば世界がわかる 著名人にインタビュー ]

【第19回】

フィデリティ退職・投資教育研究所所長野尻哲史氏が語る

「退職金の運用先は?」

多くの人は、定年によって受け取った退職金をどうやって運用しているのでしょうか。あるいは定年退職に向けて、どういう運用方法を考えれば良いのでしょうか。すでにリタイアした人にとっても、あるいはこれから定年を迎える人にとっても、関心の高いテーマだと思います。今回はフィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史さんに、退職金の運用について話を伺いました。
サラリーマンにとって、退職後に受け取る退職金が、まとまったお金を運用する最後のチャンスになると思います。実際、退職した方の資産運用先には、どういうものがあるのでしょうか。
野尻氏
フィデリティ退職・投資教育研究所所長野尻哲史氏
フィデリティ退職・投資教育研究所所長野尻哲史氏
先日、フィデリティ退職・投資教育研究所では、8,018人の退職者に対してアンケート調査を行いました。退職金をどう受け取って、どう使おうと考え、どういった運用を行っているのか、ということが、今回のアンケートのテーマだったのですが、「退職金で投資した金融商品」について質問をすると、一番回答比が高かったのが日本株で、全体の54.2%という数字が出てきました。次に高かったのは、主に海外債券に投資する投資信託で定期的な分配金があるもの。これが27.0%です。そして3番目が、主に日本株式に投資する投資信託で定期的な分配金があるもの。これが22.9%という数字になりました(図表1)。
正直、日本株の人気が高いのが意外でしたが、背景として3つの理由が考えられます。
第一に、自社株買いを通じて株式を保有していること。
第二に、会社員として、株式に対する親密度が高いということ。
退職金で投資した金融商品を、会社員と公務員で比較すると、日本株については公務員が40.5%だったのに対し、会社員は57.8%になりました。この数字の違いからも、株式に対する親密度の違いがわかります。
そして第三に、コストの安さ。オンライン証券などを使えば株式投資はコストが安くなっているので、運用先として望ましいと考えている方が、一定比率いるということです。
こうした3つの条件が相互に影響しあって、結果的に日本株を運用先に選んだ方が多かったということだと思います。
(図表1)退職金で投資した金融商品(一時金取得時別、複数回答)(単位%)
(図表1)退職金で投資した金融商品(一時金取得時別、複数回答)(単位%)
出所:フィデリティ退職・投資教育研究所レポート「見直したい、退職金での投資」 2011年3月発行
相変わらず海外債券に投資する投資信託で、定期的に分配金を受け取ることのできるタイプも、比較的高い人気を集めています。
野尻氏
全体でみると、27.0%の方がこのタイプの投資信託を購入したということですが、注目したいのは、リーマンショックの前と後で、その数字に大きな差があるということです。
リーマンショックの前に退職金運用を始めた方の場合、同タイプの投資信託を買った方の比率は25.2%でした。それが、リーマンショック後には32.3%まで上昇しているのです。
これが何を意味するのかというと、やはりマーケットリスクが高まった時に、分配金という目に見える収益が手元に入るタイプに投資する人が増える傾向がまるのでしょうか
受け取った退職金のうち、どのくらいの割合を投資に回しているのですか?
野尻氏
今回の調査で、投資をした人にどのくらいの比率で投資したのかを質問すると、3割を投資に回した方が24.6%、2割が17.9%、そして1割が10.3%で、過半数は3割未満という回答比になりました。ただ、5割という方も19.4%いらっしゃいます。
ちなみに、この比率は、2008年に行ったアンケート調査の結果と、それほど大きな違いは生じていません。
なお、退職金で投資をした人の比率を見ると、リーマンショック以前の調査では全体の41.4%が「投資型金融商品に振り分けた」と答えているのですが、リーマンショック以後になると、30.1%に減少しています。やはりマーケット動向の影響が色濃く表れている印象です。
ただ、現在投資していないという人に、今後投資するかどうかという点を訊ねてみると、リーマンショック以前に退職金を受け取った人は、全体の15.3%が「検討してみようと思う」と答えたのに対し、リーマンショック以後に退職金を受け取った人は、全体の22.2%が、検討してみようと答えています。リーマンショックという、非常に大きなマーケットの混乱があったのにも関わらず、むしろ投資することを検討している人の割合が増えていることから、徐々にではありますが、投資することの必要性が浸透してきたのではないかと考えています。
これから退職金を受け取る世代、特に40代、50代の人は、どういう点に注意すれば良いですか?
野尻氏
フィデリティ退職・投資教育研究所所長野尻哲史氏
基本的に、リタイアメント後の資産形成というのは、早い時期から始めるほど効果があります。
ところが30代、40代の人たちは、資産運用する資金的な余裕がないということで、資産運用を最初からあきらめている方が大勢いらっしゃいます。
ただ、本当にお金がないのかというと、実はそうでもないのです。この世代に特徴的なのは純資産がマイナスだということですが、これは住宅ローンなどを抱えており、資産と負債のネットで見るとマイナスだというだけで、グロス、つまり資産だけをみると、決して少なくない金額を保有しています。
したがって、バランスシートの資産側の効率性を、もっと考えるべきだと思います。
つまり、資産の一定割合を運用に回すとともに、毎月入ってくる収入の中から、やはり一定割合を投資に振り分けていくのです。
40代であれば、保有資産の半分程度を資産運用に回し、加えて毎月の収入のうち5万円程度を投資に回せば、定年退職までにある程度の資産を築くことができます。たとえば、45歳の場合、預貯金の半分300万円とその後の貯蓄額のなかから毎月5万円ずつを投資に回して、それを年平均5%程度の利回りで運用することができれば、60歳を迎えた時には3,000万円の資産が作れます。これに退職金が上乗せされますから、その合計金額を老後の生活資金に充てていくのです。
具体的に、どういう運用を行っていけば良いのですか?
野尻氏
基本は分散投資を心がけるということです。ただ、分散投資といっても、何に、どのくらいの比率で投資するのが良いのか、ということで悩んでしまう方も多いでしょう。
そこで、単純に国内株式、海外株式、国内債券、海外債券という4つの資産に、25%ずつ投資するというのは、どうでしょうか。これでも、ある程度のリターンを得ることは可能です。ちなみに、手数料と税金を考慮しないで、この4資産で過去15年間運用した場合の年平均リターンは3.2%です。この間には、ITバブル崩壊やサブプライム問題、あるいはリーマンショックなどもあったので、こうしたマーケットの混乱を経ても3.2%の利回りで運用できたというのは、それなりに評価できるのではないでしょうか。
定年退職まで運用を続け、ある程度の資産を築いたとします。では、退職後はどうすれば良いのですか?
野尻氏
フィデリティ退職・投資教育研究所所長野尻哲史氏
大事なことは出口戦略をしっかりと考えることです。つまり、定年まで運用した後、どういう形で資産管理を行っていくのか、ということが問われてきます。
資産運用には3つのステージがあります(図表2)。定年退職を迎える現役時代は、「働きながら運用する時代」です。そして、定年退職をした60歳から75歳までは、「使いながら運用する時代」。そして、75歳以降は「使う時代」になります。このうち60歳以降の出口戦略をしっかり考える必要があります。
ここでのポイントは、「定率引き出し」を行うということです。
たとえば、60歳までに築いた資産の額が、3,000万円だったとしましょう。そして、自分たちが満足する生活を送るためには、公的年金以外に、ここから毎年120万円を取り崩す必要があるとします。この時、「120万円を取り崩す」のではなく、「4%ずつ取り崩す」と考えるようにするのです。
これは、運用環境が悪化した時に、資産の目減りを少しでも小さく抑えるための工夫です。
たとえば、マーケット環境が悪化して、3,000万円が2,900万円になったとしましょう。ここで、1年間の生活に必要な120万円を引き出すと、残った額は2,780万円です。
しかし、2,900万円になったところで4%を引き出す形にすれば、引き出し額は116万円で、残った額は2,784万円になります。これだけでは、ごく小さな差でしかありませんが、10年、20年という長い期間、運用しながら取り崩していくと、最後には非常に大きな差となって表れてきます。
つまり、定年退職後には、それまでとは違ったリスクも考慮する必要がでてくるのです。定年退職前は、資産のボラティリティだけを注意すれば良いのですが、定年退職後は、資産のボラティリティだけでなく、引き出しによって資産が目減りするリスクにも配慮する必要があるのです。
また、定率引き出しをする場合には、マーケット環境が悪化して資産が目減りすると、当然、引き出せる金額が減少しますから、運用資産のボラティリティがあまりにも大きいと、引き出し額が上下して、生活が安定しなくなる恐れがあります。ですから、出来るだけボラティリティが低く、かつ、多少なりとも資産が増えていくような商品で運用する必要があります。そのためにも、分散投資が必要になるのです。
ちなみに60歳の時点で3,000万円の資産があり、それを毎年4%ずつ引き出していくとします。一方、その資産を5%で運用することができれば、資産の目減りは毎年1%になります。
(図表2)資産運用における3つのステージ
(図表2)資産運用における3つのステージ
(注)人生を資産運用の観点で3つのステージに分けたイメージ図
出所:フィデリティ退職・投資研究所 Viewpoint 2008 「60歳からの資産運用」
75歳以降はどういう点に注意すれば良いのでしょうか。
野尻氏
75歳以降は、運用を止めて厳格に使うことに専念すべきだと考えます。その意味で75歳の段階でいくら資産を残しておけるかが大切になります。すなわちその時点で残された資産の額で、何年生きられるのかということを計算することになります。そこではもはや定率引き出しを議論する必要もありません。
先の例でいけば75歳までの15年間、運用しながら引き出していけば、3,000万円のうち2,500万円程度が残ります。そこからは運用を止めるので毎年125万円ずつの定額で引き出しても、75歳から95歳までの20年間、資産が底を尽くことはありません。それ以上に長生きしてしまった場合のことも、ある程度は想定しておく必要がありますが、平均寿命という観点から考えると、95歳がひとつの区切りになります。まずは、そこまで資産を持たせるにはどうすれば良いのかということから、1年間の引き出し額を考えていけば良いでしょう。
掲載日:2011年月05月30日
野尻 哲史(のじり さとし)氏プロフィール
野尻哲史氏
一橋大学卒業。内外の証券会社調査部を経て、現在、フィデリティ投信会社にてフィデリティ退職・投資教育研究所 所長。日本証券アナリスト協会検定会員、証券経済学会・生活経済学会・日本FP学会・行動経済学会会員。著書に『米国株式市場の死と再生』(経済法令研究会)、『投資力』(日経BP社)、『退職金は何もしないと消えていく』(講談社+α新書)、『老後難民』(講談社+α新書)、翻訳に『カリスマ・ファンド・マネージャーの投資術」(東洋経済新報社)。



   
    

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