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経済ジャーナリスト・東洋英和女学院大学教授・中岡望氏が語る「米国経済の現状と出口戦略の行方」 東証ETF

 

東証ETF・ETN活用プロジェクト [ ETFがわかれば世界がわかる 著名人にインタビュー ]

【第20回】

経済ジャーナリスト・東洋英和女学院大学教授・中岡望氏が語る

「米国経済の現状と出口戦略の行方」

2008年のリーマンショック後、米国では景気回復の足取りを確たるものにするため、2度にわたって量的金融緩和が実施されました。その効果もあってか、徐々に景気回復期待が高まりつつあります。果たして米国経済はこのまま回復傾向を続けることができるのでしょうか。ここに来て米国経済に対して強気論と弱気論が交錯しています。
今後の米国経済の見通し、量的金融緩和政策の出口戦略、財政赤字と問題は山積しています。経済ジャーナリストの中岡望氏に、今後の米国経済の注目ポイントについて伺いました。
まず米国景気の現状について伺えますか?
中岡氏
経済ジャーナリスト・東洋英和女学院大学教授・中岡望氏
経済ジャーナリスト・東洋英和女学院大学教授・中岡望氏
まず最近のアメリカでの景気に関する議論の様子をご紹介します。昨年末から3月頃までアメリカ景気は転換点に達したという“楽観論”が支配的でした。その根拠は昨年の第4四半期のGDPをベースにしたものです。しかし、4月に速報値が発表され、5月26日に修正値が発表された今年の第1四半期の成長率が予想を大幅に下回ったことから、先行きに対する“悲観論”が強くなっています。
なぜ楽観論が急激に悲観論に変わったのでしょうか。年初来の楽観論の根拠は、昨年後半から景気回復が順調に進んでいるとの判断にありました。成長率の推移を見ると、2010年第1四半期が3.7%、第2四半期が1.7%、第3四半期が2.6%、そして第4四半期が3.1%と、第2四半期に落ち込んだものの、着実に改善し、年間の成長率は2.9%を記録しました。2009年がマイナス2.6%の成長ですから、様変わりといえる状況でした。昨年の第4四半期の勢いが今年も続くというのが、最近までの多くのエコノミストの共通した予想でした。
楽観論の根拠は、第4四半期の個人消費支出が大幅な伸びたことです。前期比で4.0%の伸びを記録。これは2007年以降、最高の伸びです。金融危機後、個人支出の落ち込みが景気低迷の最大の要因でしたが、2010年は一貫して増え続けています。たとえば2010年第1四半期の伸び率は1.9%、第2四半期は2.2%、第3四半期は2.4%でした。個人消費支出の中で伸びを支えたのは自動車関連の売り上げ増です。自動車関連の寄与度は0.98%と、成長の約3分の1を占めていました。これは不況で先延ばしされていた買い替え需要が出てきたことと、リーマンショックの煽りで経営破たんに陥ったGM(ゼネラルモータース)が立ち直ってきていることなどが要因と考えられます。
さらに個人消費の復調の要因は失業率の低下にあると指摘されていました。2010年の失業率は一貫して9%台(ピークは4月の9.8%)で推移しましたが、今年に入って改善に向かい、1月が9.0%、2月が8.9%、3月が8.8%と着実に低下していました。雇用の回復は個人消費の増加に結びつきます。米国では個人消費はGDPの70%以上を占めています。雇用情勢と個人消費の回復が楽観論の最大の根拠でした。
もう一つの第4四半期の成長要因は純輸出の寄与です。米国の純輸出は基本的にマイナスで、常に成長の足を引っ張って来ました。ところが第4四半期の純輸出の寄与度は3.27%と非常に大きなプラスになったのです。ドル安効果で輸出が前期比で11.1%伸びる一方、輸入が12.6%減ったのです。また中国やインドなどの新興国の高成長と公共事業の伸びで工作機械などの輸出が伸びたのが要因です。
ただ、その一方で第4四半期に景気回復のマイナス要因となったのが、在庫投資と政府支出の落ち込みです。在庫投資の減少は企業が景気の先行き懸念から生産調整をして在庫を減らしたのであれば問題ですが、消費が活発で在庫水準が減っているのであれば、今後、在庫積み増しが行われるので、景気にとってプラス材料になります。また政府部門は連邦政府も地方政府も歳出の伸びはマイナスになりました。いずれも財政赤字問題を抱えており、歳出抑制が続いているのです。さらに付け加えると、地方政府は人員削減を積極的に進めており、これは個人消費にはマイナスの影響を及ぼすと考えられます。
もうひとつのマイナス要因は、住宅投資が横ばいになっていることです。新築住宅件数は伸びているものの、勢いはありません。住宅差し押さえ件数の増加傾向に歯止めがかかっておらず、住宅市場は依然として低迷が続いています。中古住宅の販売状況や住宅在庫の状況も芳しくありません。住宅市場の調整が完全に終わるまでには、まだ時間がかかりそうです。
こうした第4四半期のGDP統計の分析に加え、春先の段階では、失業率の低下、そして個人消費の伸びが続くとの予想から、景気に対する楽観論が支配的でした。しかし、2011年第1四半期のGDP統計が発表されて、先行きに対する懸念が一気に吹き出してきたのです。
米国の景気は先行き懸念が強いということですか?
中岡氏
経済ジャーナリスト・東洋英和女学院大学教授・中岡望氏
先ほどお話ししたように、今年の第1四半期の成長率は1.8%と大方の予想を大幅に下回るものでした。問題は、それが一時的な減速で、第2四半期以降回復に向かうのか、それとも2010年の再現になるのかです。それを判断する前に、第1四半期の内容を見てみます。まず期待された個人消費支出の伸びは2.2%に留まりました。第4四半期の4.0%を大幅に下回ったのです。自動車関連の寄与度も0.98%から0.24%へと急激に低下しています。さらにプラスだった純輸出も再び寄与度はマイナスになりました。これは輸出の増加は続いているものの、輸入が増えたためです。政府部門は大きく成長の足を引っ張りました。特に連邦政府の軍事費の支出の落ち込みが響きました。ただ前期にマイナス要因だった在庫投資は逆に積み増しが増え、成長を支える要因となりました。これは個人消費の落ち込みの結果とみるべきでしょう。冬の異常気象で住宅建設や個人消費が落ち込んだとの見方もあります。もしそうなら、天候が回復すれば、ある程度、需要も回復するかもしれません。また軍事費の減少は一時的で、第2四半期以降、増加するとの見方もあります。このあたりの判断も、景気見通しに影響を与えるでしょう。
成長率の鈍化に加え、個人消費に影響を与える雇用情勢も4月に再び失業率が9.0%に逆戻りし、先行きの不透明感を高めています。雇用情勢に関して言えば、最近、失業保険給付申請件数が増えています。こうした状況が続けば、失業率はさらに上昇する可能性も否定できません。さらに企業業績の悪化も雇用に影響を及ぼす懸念があります。第1四半期の税引き後の企業収益の伸び率はマイナス0.9%でした。第4四半期の3.3%の伸びと比べると、大幅に悪化しています。企業業績の悪化が続けば、企業の新規採用の意欲も低下するため、雇用統計にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。単に雇用増の問題だけでなく、賃金上昇も抑制されるでしょう。こうした状況を見る限り、雇用増、賃金増、消費増という単純な図式は期待できないでしょう。
さらにガソリン価格と食料品価格の上昇も個人消費にとって懸念材料です。特に自動車社会である米国ではガソリン価格の変動が景気に大きな影響を与えます。昨年、ガソリン価格は40%上昇しており、今年も高止まりしています。これは個人の可処分所得を減らすことになり、消費にマイナスの影響を与えています。
もうひとつの注目点は、東北地方太平洋沖地震の影響で部品供給の停滞がどの程度の影響を与えるかです。日本の部品メーカーの工場が被災しており、米国の自動車メーカー向け部品の供給が滞っています。自動車の需要が高まっているのに部品が無くて製造できないという状態が長く続くなら、自動車生産のみならず鉱工業生産全体に影響を及ぼし、景気にはマイナスとなるでしょう。
ある大手景気予測機関は第1四半期の成長率が発表される前には第2四半期の成長率を4%前後と予想していましたが、第1四半期の成長が鈍化したことを受けて、成長率の予想を2.8%にまで下方修正しています。
こうした景気見通しの急速な変化に対して、政府と議会は財政赤字削減を巡って対立し、具体的な景気対策を打ち出せない状況にあります。どう考えても、政策的な景気テコ入れが期待できる状況ではありません。同時にケインズ的な景気刺激策は効果がないというのが、このところの学界を含めた一般的な見方になっており、経済の自律回復を期待するしかない状況です。しかし、個人消費や住宅投資、設備投資など主要な項目を見る限り、力強い回復を期待するのは難しいでしょう。2011年は2010年のパターンが繰り返される可能性が強いでしょう。ただ“二番底”を懸念するまで状況は悪い訳ではありません。
米国の金融当局は出口戦略を模索してくるでしょうか。
中岡氏
経済ジャーナリスト・東洋英和女学院大学教授・中岡望氏
FOMC(連邦公開委員会)のなかでも意見が二つに分かれています。いつもFOMCはインフレ・タカ派と容認派に別れていますが。本格的なインフレが来るという見方を重視するなら金融引締めに転じるところですが、米国の景気の足取りは、どうも弱いのではないかという見方もあります。FOMCは2%程度の“インフレ目標”を持っていると言われています。第1四半期の消費者物価指数は3.8%上昇しています。その最大の要因はガソリン価格と食料品価格の上昇です。エネルギー価格と食品価格を除いた物価上昇を“コア・インフレ”と言い、FOMCはコア価格の動向を政策判断の材料にしています。第1四半期のコア価格の上昇率は1.4%で、ターゲットの2%を下回っています。これは、FOMCが急激に金融引き締める転じる可能性が薄いことを意味しています。とはいえ、この上昇率は2009年第4四半期以降最も高い上昇率であり、FOMCが警戒感をもってインフレ動向を見ていることは間違いないでしょう。
また、金融政策を決定する際に雇用情勢の判断もポイントになります。来年は大統領選挙の年ですが、このまま9%前後の失業率が続くと、オバマ大統領にとって再選の芽が限りなく無くなるとの指摘もあります。したがって、オバマ大統領としては、しばらく金融緩和を続けたいというのが正直な気持ちだと思います。
仮に量的緩和から金融引き締めに転じるとなると、長期金利の水準が上昇するでしょう。現在の金融緩和は政策金利をゼロにする一方で、FRB(連邦準備制度理事会)が長期債券を購入し、市場に流動性を供給するという形で行われています。したがって、金融引き締めに転じれば、長期金利の上昇に直結するでしょう。それは米国の景気にとって確実にマイナス要因となります。
米国の金融緩和政策は、今年6月までに6,000億ドルの長期債を購入して資金供給を行うという量的金融緩和と、満期が到来したモーゲージ・バック・セキュリティ(MBS)などの償還資金を再投資という2つの方法で行われています。FRBは、6月以降、新規の債券購入は行わないと発表しました。それは新規供給を行わないということであって、市場から資金を引き揚げることを意味しているわけではありません。満期が到来したMBSの償還資金を使って長期債を購入することに変りはありません。それは引き締めというよりも、むしろ“中立的な”金融政策というべきでしょう。ただ、バーナンキFRB議長は異常な超低金利政策からできるだけ早く脱したいという気持ちを持っているのは間違いありません。
格付け会社が米国国債の格下げ可能性を示唆しています。米国の財政問題はかなり深刻な状況にあると考えて良いのでしょうか。
中岡氏
経済ジャーナリスト・東洋英和女学院大学教授・中岡望氏
本来であれば、景気回復の足取りを確実なものにするため、積極的な財政政策を出動させたいところだと思うのですが、先に触れたように米国の議会では景気刺激策を論じる前に、財政赤字問題の処理が優先されています。
たとえば、間もなく米国財務省証券は発行限度上限額に達します。上限を引き上げる法律が議会で成立しない限り、財務省は新規の財務省証券を発行できないのです。だが共和党議員、特に財政保守主義者のティーパーティの影響下にある共和党議員は財務省発行限度額の引き上げに反対し、財政削減をするべきだと主張しています。もし限度額引き上げが議会で承認されなければ、米国政府は政府機関の閉鎖や、場合によっては借換債を発行できない状況になれば、債務不履行に追い込まれることになります。
もちろん、そうなる前に両者は最終的に歩み寄ると思うのですが、発行限度額上限の引き上げを人質に取られている以上、オバマ大統領も思い切った対策を打ち出すことができません。何しろ2011会計年度(10年10月~11年9月)予算さえ4月15日にようやく成立したくらいですから、このままだと2012会計年度予算がどうなるのかも見えて来ません。オバマ大統領は選挙を控え、極めて厳しい状況に追い込まれています。
財政面で動けない以上、金融政策に依存するしかないわけですが、FOMCが更なる金融緩和を行うのは現実的に無理でしょう。インフレ懸念が強まっている以上、FOMCもどこかの段階で“出口戦略”を模索する必要がありますが、そのタイミングを図るのは難しいでしょうね。
米国のインフレ懸念はまだ強まるのでしょうか。
中岡氏
先ほど触れたように消費者物価はかなり高い上昇を示していますが、コア・インフレ率は2%を下回っています。労働コストの上昇は高失業率で抑えられているので、少しくらい高い成長率になっても“コスト・プッシュ・インフレ”が起る状況ではないでしょう。現在のインフレは、これも先に触れたように、原油価格上昇によるものです。したがって、米国内の要因ではなく、外政的要因によってインフレ率が上昇するリスクはあります。超金融緩和政策によって資金がだぶついていますから、原油などコモディティ市場などに資金が向かって、コモディティ価格を押し上げています。FOMCの金融政策がやや中立的になったことで、こうした市場にどのような影響が出るのかが当面の焦点でしょう。もちろん中東の地政学的な状況も大きな要因で、混乱が収まれば、原油価格は低下に向かうでしょうが、混迷が深まれば、再び上昇に向かう可能性も否定できません。
また、ドル安も物価の押し上げ要因になります。ドル安によって米国の輸出が伸びるというメリットはありますが、輸入インフレを招く可能性もあります。ドル安が続けば、最終的に“ドル不安”に発展する懸念もあります。一部の論者から、遠からず“金本位制”に復活せざるを得ないとの指摘さえあります。米国の景気の先行きは楽観できないというのが、現在のコンセンサスの見通しです。
掲載日:2011年月06月07日
中岡望(なかおか のぞむ)氏プロフィール
経済ジャーナリスト・東洋英和女学院大学教授
五十嵐 敬喜(いがらし たかのぶ)氏
1971年 国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。
1973年 東洋経済新報社入社。
1981年~82年 フルブライト・ジャーナリスト、ハーバード大学ジョン・F・ケネディ政治大学院ビジティング・フェロー。
1993年 ハワイの大学院大学イースト=ウェスト・センター(East-West Center)の「ジェファーソン奨学金(Jefferson fellowship)」を得て留学、アメリカ経済を研究。
その後、東洋経済編集委員、『会社四季報』副編集長、個人資産運用雑誌『マネーくらぶ』編集長、英文月刊誌『Tokyo Business Today』編集長、『Japan Company Handbook』編集長、国際業務室長などを経て、2002年に東洋経済新報社を退職。フリーのジャーナリストへ。

2002年から2003年にミズーリ州セントルイスのワシントン大学のビジティング・スカラーとして招聘され、「Rise and Fall of East Asian Economies」のコースを教える。帰国後、フリージャーナリストとして日米の政治経済などを分析。この間、国際基督教大学、日本女子大学、武蔵大学、成蹊大学で非常勤講師として米国経済、米国政治などを教える。
2010年4月 東洋英和女学院大学教授(国際経済学、マクロ経済学、金融論などを担当 )


   
    

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