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シニアエコノミスト伊藤さゆり氏が語る「揺れるユーロ」 東証ETF

 

東証ETF・ETN活用プロジェクト [ ETFがわかれば世界がわかる 著名人にインタビュー ]

【第21回】

シニアエコノミスト伊藤さゆり氏が語る

「揺れるユーロ」

一時は収まったかに見えたギリシャの債務問題が再び浮上してきました。あるいはギリシャだけでなく、アイルランドやポルトガルなど、他のユーロ加盟国のなかにも、ソブリンリスク問題があります。域内におけるこの手の問題を抱えるなかで、果たしてユーロという単一通貨は、今後も維持していくことができるのか。ユーロ加盟国のなかには脱落するところが出て来ないのか。ニッセイ基礎研究所の主任研究員、伊藤さゆりさんにユーロ経済の現状を中心に、お話を伺いました。
ユーロのソブリンリスク問題は現状、どうなっているのですか?
伊藤氏
伊藤氏
ニッセイ基礎研究所の主任研究員
伊藤さゆり氏
ユーロ域内におけるソブリンリスク問題については、大勢の方が以前から不安視していたように、やはり救済プログラムが上手くワークしていません。現状の深刻さ加減は、恐らく1年前に比べて悪化しており、この問題が世界中に波及しないようにするためには、追加資金を投入するしかありません。
ただ、ユーロ圏経済は2つの理由から全体としては予想以上に堅調さを保っています。
一つ目の理由は、ソブリンの危機でEU・IMFの支援要請に追い込まれた国はギリシャ、ポルトガル、アイルランドの3カ国に限定されていることです。一時はスペインへの危機波及が心配されていましたが、構造改革への積極的な取り組みで信用の回復、3カ国との切り離しに成功、ソブリンリスクの問題は比較的規模が小さい一部の国に抑えられています。
二つ目の理由は、EUとIMFによる支援は周辺国の信用回復への効果は発揮できていないのですが、ECBによる低金利政策、固定金利・金額無制限の流動性供給という政策のサポートもあって、ドイツなど中核の国々へのマイナスの影響は抑えられているということです。
ECBは主要な中央銀行の先陣を切って4月に利上げを実施、7月にも追加利上げを実施する方針ですが、過去の水準からすれば、現在の政策金利は十分に低い水準です。ギリシャのように債務問題を抱えていない国は、長期金利も低水準で推移しており、緩和的な金融環境による追い風を受けています(図表1)。
確かに、ギリシャ問題に見られる欧州ソブリンリスク問題は現状、大いに深刻であるように見えるのですが、一方で中核国経済の堅調という好材料もありますから、今後のユーロの行方を読むにあたっては、こうした好材料、悪材料のバランスの中で、どうなるのかという視点で考える必要があります。
図表1 欧州中央銀行(ECB)の政策金利
図表1 欧州中央銀行(ECB)の政策金利
(資料)各国中央銀行
実体経済は好調とのことですが、その背景にあるのは何なのでしょうか。
伊藤氏
今の米国経済はソフトパッチ、つまり一時的に経済成長が鈍化している状態にあるのですが、それはユーロ圏にも当てはまります。今年1~3月期の経済成長率は年率で3.4%の高成長となりましたが、天候などの一時的な押し上げ要因がなくなることもあって、4~6月期の経済成長率は、1%台まで鈍化するでしょう。
ユーロ圏経済の成長の牽引役はドイツ経済であり、新興国などへの輸出の拡大を原動力とする景気の回復でドイツの実質GDPはすでにリーマンショック前の水準を回復しています。稼働率も長期平均の水準を上回るようになっていて、設備投資の意欲も旺盛、失業率は東西ドイツ当方以来、最低水準となっています。4~6月期以降は、新興国経済の減速でドイツの輸出拡大の勢いは鈍りそうですが、内需によるカバーが期待できます。ドイツ経済は昨年の3.5%成長にこそ届かないものの、今年も3%台の成長を維持できそうです。ドイツ経済の好調は、フランスやベルギー、オランダといった近隣諸国にも波及していますので、このままユーロ圏経済が失速するということにはならないと思います(図表2)。
その一方で、ギリシャやポルトガル、アイルランドといった危機国は景気後退局面を脱しきれておらず、この先も緊縮財政や構造改革のデフレ圧力でマイナス成長が続く見通しで、ユーロ域内における経済格差の拡大は続きそうです。
図表2 ドイツのユーロ圏の稼働率と失業率
図表2 ドイツのユーロ圏の稼働率と失業率
(資料)欧州委員会
危機国の経済問題が深刻化したら、金融不安などに及ぶ影響はありませんか?
伊藤氏
伊藤氏
まさにこの点が、今、最も懸念されているところです。危機国におけるソブリンリスク問題への対応を誤り、金融システム不安が再燃してしまうと、ユーロ圏経済の安定が損なわれる恐れがあります。
EUとIMFのギリシャへの支援は開始から1年が経過したばかりですが、早くもギリシャには追加支援が必要になりました。追加支援の前提となる財政再建法案が6月末までにギリシャの議会を通過したことで、EUはギリシャ向けの第二次支援の本格的な協議に入りました。第二次支援の規模は、3年間で1100億ユーロという第一次支援とほぼ同規模になる見通しですが、今回は償還期限を迎える国債の保有者に自発的に借換え債を引き受けてもらう形で民間投資家に負担を求める予定になっています。民間負担を導入する背景には、危機国の財政再建が進まないツケをもっぱら支援国の納税者が負担するというのは適切ではないという判断があります。
実は、ロールオーバーと呼ばれるこの民間負担の方式が固まるまでに紆余曲折があり、最大の支援国であるドイツが提案した「償還期限の長い新債券との債務交換」という方式が採られた場合には、格付け会社がデフォルト認定する恐れがありました。仮にギリシャがデフォルトに陥ったらどうなるでしょうか。ギリシャの銀行はギリシャ国債を担保にECBから資金供給を受けているのですが、これが停止されてしまうので資金繰りが回らなくなります。ギリシャ国債を保有するドイツやフランスの銀行などには損失が発生します。デフォルトがギリシャの国債に限定されれば、ギリシャ以外の国の銀行への影響は限られそうですが、国のデフォルトは民間部門に影響しますし、同じようにEU・IMFの支援を受けているポルトガルやアイルランドもいずれはデフォルトするとの思惑が広がるきっかけになったり、せっかく信用回復を実現したスペインにも財政危機が波及してしまうおそれがあります。
第二次支援では民間負担は求めるけれど、ロールオーバーというデフォルトとみなされない方法で行おうということで調整を進める結果となったのは、単一通貨圏の中での伝播のリスクが依然として警戒水準にあるからなのです。ただ、現時点ではロールオーバーの詳細が明らかではないので、条件によっては、格付け機関が救済目的の債務再編とみなしてデフォルトに格付けを引下げる可能性はまだ残っています。
今はギリシャ問題の解決が喫緊の課題だと思うのですが、ポルトガルやアイルランドも、事態はかなりひっ迫しているのですか?
伊藤氏
国によって構造的な問題が異なっていて、3国の状況は一様ではありません。基本的に財政そのものの問題はギリシャが最も厳しく、ポルトガルの財政再建が難しいと見られているのはギリシャとともに財政再建に必要な経済成長を実現する道筋が見えないからです。
アイルランドの状況はこの2カ国とかなり異なります。アイルランドの財政悪化の原因は著しく膨張した不動産バブルの崩壊にあります。財政面では金融業に依存した歳入構造の見直しを図る必要はあるものの、財政再建の成否を握るのは銀行のリストラをしっかり行うことができるかという点です。
経済の構造でもアイルランドとギリシャ、ポルトガルには違いがあります。アイルランドは医薬品やITサービスなどの輸出産業の基盤がしっかりし、景気変動に合わせて賃金や不動産価格が調整するという柔軟さがあります。単一通貨を導入している国の債務危機は、為替の切り下げ調整で競争力の回復を図ることができないために解決が難しいと考えられているのですが、アイルランドの場合はすでに賃金と物価の調整によるコスト競争力の回復が相当進んでいます。3カ国の中で財政構造改革と経済成長を両立できる可能性が最も高いのはアイルランドだと思います。
ギリシャがユーロから離脱する可能性は?
伊藤氏
伊藤氏
ないと思います。仮にギリシャがユーロを捨て、かつてのドラクマという通貨単位に戻ったら、どういうことが起こるでしょうか。恐らく、ドラクマは大暴落するでしょう。コスト競争力の回復こそ進みますが、為替の減価とともにユーロ建ての債務の返済負担は増大してしまいますので、政府だけでなく民間部門にもデフォルトが広がることになるでしょう。金融機関は預金の流出に見舞われるおそれもあります。信認の弱い通貨に回帰することで金利は上昇しますし、ユーロ参加国の間で為替リスクや両替コストが発生することで、競争条件は不利になります。
ギリシャは輸出産業が未発達で対外債務が多い国です。ユーロから離脱することで期待されるベネフィットよりも、支払うコストの方が高くつく恐れがありますから、自発的にユーロから離脱するということは、まず考えにくいと思われます。
加えて、自発的にしても強制的にしても、現在のEUの基本条約にはユーロから離脱することを認める規定が設けられていないという問題があります。仮に、ユーロ離脱についての条項を設けるために条約を改正するとなれば、EUの全加盟国の批准を必要とするといった膨大な手続きが必要になってきます。一口にユーロ離脱とっても実は非常にハードルが高いのです。
ユーロという枠組みが崩壊する恐れはないということですか。
伊藤氏
単一通貨ユーロは歴史的な実験であり、政治的な意思に支えられています。そういう意味では、どのような可能性も排除できないのですが、ユーロの崩壊を許すよりは、維持するコストが遥かに小さいという点で、崩壊は考え難いと思います。
たとえばユーロ圏で最強の経済力を持つドイツが、危機国への支援負担を嫌気して、ユーロから脱退するという噂もありますが、今のドイツの経済的繁栄は、ユーロに加盟しているからこそ得られている側面もあることを、忘れてはなりません。
ドイツ経済は欧州で最強ですが、成長率ではアジアなど新興国に遥かに見劣りしますし、単独で発揮できる影響力は限られています。新興国のプレゼンスが高まる世界経済において今後ともドイツやヨーロッパの主要国が影響力を発揮していくためには、ユーロという枠組みを維持し続けることが重要です。
したがって、現実問題としてユーロという枠組みが崩壊しないよう、参加国間で協議を重ねて周辺国の債務問題解決の糸口を探る一方、第二、第三のギリシャ問題が生じないように、マクロレベルでの政府監視、あるいは市場監視などの未然防止策でユーロの制度を強化するという選択をせざるを得ないと思います。
掲載日:2011年月07月06日
伊藤さゆり(いとう さゆり)氏プロフィール
ニッセイ基礎研究所・主任研究員
伊藤さゆり(いとう さゆり)氏
1987年 日本興業銀行入行。
2001年 ニッセイ基礎研究所入社。
2003年~ 現職。
著書
『 現代ヨーロッパ経済論 』 (部分執筆) ミネルヴァ書房 2011年 、『 現代の金融 -世界の中の日本 』 (部分執筆) 昭和堂 2009年


   
    

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