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東京財団上席研究員 原田泰氏に聞く 「日本の財政問題とマーケットへの影響」 東証ETF

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東証ETF・ETN活用プロジェクト [ ETFがわかれば世界がわかる 著名人にインタビュー ]

【第33回】

東京財団上席研究員 原田泰氏に聞く

「日本の財政問題とマーケットへの影響」

ユーロ債務問題は、ギリシャへの二次支援が決まったことによって、ほぼ一段落。しかし海外のファンド勢は、次の目標として、日本売りを仕掛け始めているという話も浮上してきています。先進国のなかでも最悪の水準に達している日本の財政赤字。その返済可能性はあるのでしょうか。東京財団上席研究員の原田泰氏に、話を伺いました。
実際のところ、日本の財政事情はどのくらい悪いものなのでしょうか。
原田氏
原田氏 東京財団上席研究員
原田泰氏
日本の財政事情が極めて悪いということは、誰でも知っていることだと思います。1995年時点における政府債務残高は、対GDP比で86.2%でした。これが2011年には212.7%まで上昇してきています。
これは、先進諸国のなかでも最悪の数字です。ちなみに2011年の数字で比較すると、米国が101.1%、イタリアで129%、英国が88.5%、ドイツが87.3%、フランスが97.3%、カナダが85.9%です。いかに日本が借金だらけになっているかということが、お分かりいただけると思います。
当然、こうなると増税が必要になりますが、仮に増税をしたとしても、今の政府の案では、増えた税収分は現在の高齢者の社会保障給付費に消えてしまいます。子供手当は、現時点の勘定さえ合わせられれば、将来的に子供の人数は減少していくので、未来の勘定も合うことになります。しかし、高齢者の場合、現時点で勘定合わせが出来たとしても、将来的に高齢者人口は増加傾向をたどっていくため、再び見直しを行わないと、辻褄が合わなくなってしまいます。
したがって、今の財政赤字を増税によって賄おうという議論は良いのですが、増税分を社会保障に回せると考えることは根本的に間違っています。
消費税の増税論議が高まっています。一体、どこまで消費税率は上がっていくのでしょうか。
原田氏
たとえば、高齢者1人あたりの社会保障給付費が一定で、高齢者人口に応じて増えていく。そしてGDPは、生産年齢人口に応じて増えていくと仮定してみましょう。ちなみに名目のGDPは、生産年齢人口が今後、減少傾向をたどっていくため、結論としては減っていくことになります。
社会保障給付費の対名目GDP比を見ると、1970年は4.6%に過ぎませんでしたが、2010年は24.6%まで上昇しました。この数字は将来的に、更に上昇を続け、2060年には53.5%まで達します。
消費税1%は、GDPの0.5%の税収に相当します。そうなると、社会保障給付費は現状から28.9%上昇しますから、それを0.5%で割ると、どこまで消費税率を上げれば良いのかが分かります。つまり57.8%です。現在の消費税率が5%ですから、それに57.8%を上乗せした62.8%が、2060年時点の消費税率という計算が成り立ちます。
もちろん、このような増税が可能だとは思えません。20%程度の消費税率なら、北欧諸国の消費税率を引き合いに出すことで、国民への説明もつくでしょう。しかし、50%、60%にもなると、説明がつかなくなります。
つまり、現在の社会保障を維持するために必要なお金を、増税のみで賄うのは不可能です。増税すれば税収が増えると思っている人は多いのですが、あまりにも高税率になると、経済効率が低下してしまいます。また、真面目に税金を納めるのがバカらしくなり、節税と脱税行為が横行するでしょう。結果、税率をあまりに引き上げると、逆に税収が減ることになるでしょう。
増税が難しいということになると、どうすれば良いのでしょうか。
原田氏
現在の政府は「税と社会保障の一体改革」を策定しています。当然、将来の消費税増税も加味したうえでの一体改革ですが、現在の社会保障の水準を維持したままでは、増税したところで限界があります。高齢者人口が増え続ける限り、社会保障負担は重くなる一方ですから、消費税を5%引き上げて10%にしたとしても、2年もしたら再び増税論議が浮上してくるでしょう。
実は、小泉内閣の当時、財政再建はかなりの程度まで進みました。しかし、その後、社会保障給付費のうち医療と年金の額が増加したため、日本の財政事情は悪化の一途をたどっていきました。なかでも年金額については、マクロスライド方式を採用して本来成長率が低下したら年金をカットしないといけなかったのですが、デフレが進んだにも関わらず年金額が減らないという状態が続き、ますます財政事情の悪化に拍車をかけたのです。
もはや増税しても社会保障を維持できません。こうしたなかで財政再建を行っていくためには、高齢者1人あたりの社会保障支出を減らさざるを得ません。
仮に、財政再建に道筋が立っていた小泉政権末期の頃の水準まで、社会保障支出を下げたとすると、2060年時点の社会保障給付費は、対GDP比で45.4%になり、2010年の24.6%に比べて20.8%上昇します。この上昇分を消費税の増税分で賄おうとした場合、消費税率の引き上げ幅は41.6%になりますから、やはり実現不可能です。
仮に、実現可能な水準まで社会保障支出を引き下げるということになったら、日本経済がバブルになる以前の1980年水準まで引き下げなければなりません。こうすれば、2060年時点の社会保障給付費は、対GDP比で31.5%になり、消費税率は20%余りで足ります。これなら、何とかできるでしょう。
ただ、2010年の高齢者1人あたりの社会保障給付費は398万円で、1980年のそれは233万円ですから、現行水準に比べて、社会保障給付費は4割カットになります。これも、福祉をカットしすぎるということで、受け入れられないと思います。ただし、いずれにしても、増税だけで財政赤字を穴埋めすることは不可能です。どこまでカットするかという程度問題はあるにしても、社会保障給付費の削減は、日本の財政を再建させるうえで必要不可欠です。
これまでの社会保障制度は、高齢者の人口比率が低く、経済が成長していた時代だからこそできたのです。しかし現在は、高齢者人口が増え、経済成長も見込めなくなっていますから、社会保障の水準は引き下げざるを得ません。政治は、このことをきちっと国民に説明する必要があります。
財政再建のスピードが遅いと、日本国債が暴落する恐れはありませんか。
原田氏
原田氏
日本国債が暴落するのかどうかは、何とも言えません。何しろ、日本国債は暴落すると言っているエコノミストが所属している銀行が、その日本国債を大量に購入していたりするのですから。
日本国内の資金需要が大幅に後退し、自己資本比率規制などが厳格化されるなかで、日本の銀行は、日本国債を買わざるを得ない状況にあるのだとしたら、海外勢が一所懸命、日本国債を売り崩そうとしても、なかなか暴落しないでしょう。
それに、日本の場合は自前の中央銀行があるので、仮に日本国債の価格が暴落して、利回りが急上昇したとしても、日銀が緊急避難的に日本国債を買い上げることができます。というか、日銀は銀行を救うために何でもするでしょう。イタリアのように財政再建が成功しつつあった国の長期金利が、どうして7%という警戒水準まで上昇したのかというと、自前の中央銀行が無かったということも、大きく影響していると思います。理想を言えば、長期金利が少しずつ水準を切り上げていく状態が望ましいのではないでしょうか。これはインフレターゲットで徐々に物価と金利を上げるということです。その方が、少しずつ日本国債を通じた資金調達が困難になリ、政府が財政再建に真剣に取り組まざるを得ないということになります。
むろん、急に日本国債が売られ、国債価格の暴落と長期金利の急騰を招いてしまうと、マーケットが大混乱に陥ってしまいますが、そうではなく、徐々に悪い方向に進んでいけば、その途中で状況が悪化に向かっていることに人々が気付きます。そうなったほうが、財政再建にはプラスではないでしょうか。一遍に大地震になるより、小さな地震が起きてエネルギーを少しずつ放出できればその方が良いということです。
デフレから脱却すれば、名目GDPが増えて、消費税を増税したのと同様の効果が得られるのではないでしょうか。
原田氏
それはある意味、正しいと思います。リーマンショックの前、日本の税収は50兆円ありました。それが現在は40兆円ですから、10兆円も目減りしていることになります。
10兆円というのは、消費税で4%分に相当します。つまり、GDPをリーマンショック前に戻せば、目先、消費税を4%分、負担しなくても良いことになります。もちろん、それだけで財政赤字のすべてを賄うことはできませんが、発射台が高くなる分、マシでしょう。
ただ、デフレ脱却によって名目所得が押し上げられ、それによって税収が急激に増えるというのは、あくまでもデフレ脱却の初期段階での話です。それ以後は、名目所得の伸びに応じて徐々に税収が増えるだけです。ですから、社会保障のある程度の維持と財政赤字の削減のために、やはり増税は必要になります。
日本経済が回復するうえで必要なことは何でしょうか。
原田氏
やはり円安・デフレ脱却でしょう。これまで1ドル=75円台まで円高が進んだことで、日本の輸出企業は厳しい状況に追い込まれ、賃金が上がらず、デフレが一段と進みました。
日本が円高で苦しんでいる間、隣国の韓国はどうだったのかというと、1ドル=900ウォンだったのが、一時は1,500ウォンまでウォン安が進み、韓国企業は競争力を高めることができたのです。もし、日本が韓国と同じように競争力を高めようとするならば、1ドル=200円の円安が必要だったといいうことになります。
これだけの円安を実現させるためには、韓国の中央銀行が行ったのと同じ政策を取る必要がありました。韓国の中央銀行はリーマンショック後、マネタリーベースを1.6倍まで増やしました。これに対して日銀の場合、最近は少し増やしていますが、直後では1.1倍にしか増やしていませんでした。これを韓国並みに増やしていたら、為替は円安に転じ、それが日本経済を回復させる原動力になったはずです。もちろん、韓国と同じにしなくても良いのですが、円高にしないことが必要だったと思います。
掲載日:2012年月03月29日
原田泰(はらだ ゆたか)氏プロフィール
原田氏 1950年生まれ。
1974年東京大学卒業後、同年経済企画庁入庁、ハワイ大学に留学(経済学修士)、経済企画庁国民生活調査課長、同海外調査課長、財務省財務総合政策研究所次長、大和総研専務理事チーフエコノミストなどを経て、現職。

著書は、『震災復興-欺瞞の構図』『日本はなぜ貧しい人が多いのか』『世界経済 同時危機』(共著)『日本国の原則』(石橋湛山賞受賞)『人口減少社会は怖くない』(共著)『昭和恐慌の研究』(岩田規久男氏他共著、日経・経済図書文化賞受賞)『都市の魅力学』『日本の失われた十年』『日米関係の経済史』など多数。


 
   
    

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