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エコノミスト伊藤さゆり氏に聞く「ギリシャ問題が尾を引き、マーケットの不安定が続く」 東証ETF

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東証ETF・ETN活用プロジェクト [ ETFがわかれば世界がわかる 著名人にインタビュー ]

【第38回】

エコノミスト伊藤さゆり氏に聞く

「ギリシャ問題が尾を引き、マーケットの不安定が続く」

春先には一段落したかに見えた欧州債務問題ですが、6月17日に行われたギリシャの再選挙の結果次第ではユーロ離脱につながるとの見方から、マーケットに激震が走りました。問題はギリシャに止まらず、スペインにも波及、さらにイタリアへの懸念も再燃し始め、マーケットはリスク・オフに。今後のユーロ情勢はどうなるのか。ニッセイ基礎研究所上席主任研究員の伊藤さゆりさんに話を伺いました。
ギリシャ問題は一段落したのでしょうか。
伊藤氏
伊藤氏 ニッセイ基礎研究所上席主任研究員
伊藤さゆり氏
5月、6月にマーケットに激震が走ったのは、5月のギリシャ議会選挙でEU・IMFからの支援の見返りに財政緊縮策を約束した旧二大政党が大敗、政権樹立協議がまとまらず、6月の再選挙に結論が持ち越されたことが発端でした。再選挙で反緊縮派が政権を取れば、ギリシャはユーロ離脱に追い込まれるという懸念が広がったからです。結果として財政緊縮派である新民主主義党(ND)中心の政権が誕生、ユーロ離脱観測はひとまず後退しました。
そもそも、反緊縮派が政権を握ったら、ギリシャがユーロから離脱するというのは、やや早計だったと思います。確かに反緊縮派、特に最も多くの議席を獲得した急進左派連合(SYRIZA)は、選挙戦で、EU、IMF支援の条件である財政緊縮策を「撤回する」と主張していましたが、ユーロの残留も公約でした。しかも、EU・IMFからの支援が停止されてしまえば、ギリシャは債務不履行(デフォルト)に追い込まれます。SYRIZAの主張は、ギリシャの無秩序なデフォルトは避けたいというEU・IMFの思いを逆手にとった瀬戸際戦略とも評されましたが、現実に政権についた場合には、EU、IMFとの支援条件の再交渉でとりあえず折り合いをつけることになったのではないかと思います。
逆に言えば、いわゆる緊縮派の政権が誕生したからといって、デフォルトやユーロ離脱のリスクが消滅した訳ではありません。7月初めにEU・IMFの合同調査団がアテネ入りし、これからギリシャ新政権との支援条件を巡る協議が本格化します。ギリシャ政府は財政構造改革の遅れを認めた上で、改革のスピードを遅くしたいと望んでいますが、EU・IMFは大規模な債務の再編を含む追加支援を3月にまとめたばかり。譲歩の余地は限られており、修正は小幅なものに留まるでしょう。なんとか協議がまとまり、支援継続が決まったとしても、ギリシャ政府が約束した改革にきちんとした成果を挙げることができなければ、ギリシャは再び支援停止の淵に立たされることになります。この先もギリシャ情勢をきっかけにマーケットが再び荒れる恐れは十分にあるのです。
EU首脳会議の内容は、欧州債務問題の解決につながりますか?
伊藤氏
6月28、29日の両日にわたって行われたEU・ユーロ圏首脳会議では、「成長促進策」、「総合深化の工程表作り」、「ユーロ危機への短期対策」という3つの大きな柱について話し合われました。
一連の合意事項のうち(図表1)、マーケットが最も好感したのはスペインやイタリアを念頭に置いた短期対策。中でも、ESM(欧州安定メカニズム)が銀行に対して直接的に資本を注入できるようにする可能性が示唆されたことです。
これが実現すれば、スペインがESMから銀行増資支援を受けても、政府債務は拡大しません。結果、金融機関の経営不安と政府の信用リスクが互いに悪影響を及ぼす循環を断つことができます。
ここにきて「政府経由の銀行支援しか認めない」という従来の方針からの思い切った方向転換が打ち出されたのは、EU機関やユーロ圏首脳の間で、ギリシャを巡るマーケットの緊張が再燃するおそれに備えた体制作りが必要という認識が共有されたからではないかと思っています。
図表1 6月EU首脳会議の合意事項
成長促進策  1200億ユーロ規模の成長雇用対策
財源はEIB融資600億ユーロ、EU財政の構造基金550億ユーロなど
統合深化の工程表作り   ファンロンパイ大統領が叩き台となるレポートを報告
統合強化の柱として財政同盟、銀行同盟、経済同盟、政治同盟を提示
EU機関や各国と連携して作業を進め10月に中間報告、12月に最終報告をまとめる
ユーロ危機の短期対策 単一の金融監督機関の設立後ESMから銀行への直接支援を認める
ESMからのスペイン支援は債務不履行の場合の返済優先権の適用除外とする
EFSF/ESMによる国債市場への弾力介入を認める
(資料)EU・ユーロ圏首脳会議
ギリシャのユーロ離脱の可能性は?
伊藤氏
ここまで面倒を引き起こすギリシャは、ユーロから切り離すべきではないかという意見もありますが、これは非常に難しいでしょう。何しろ、今のギリシャはユーロへの残留を希望しています。しかもユーロには、経済的要素だけでなく、政治的要素もあります。第二次世界大戦の悪夢を二度と繰り返さない、欧州の平和を維持していくために欧州を統合させていくという高邁な理念があります。EUの基本条約は加盟国間の救済を禁じていますので、無条件に支援し続ける訳にはいかないのですが、だからといって簡単に切り離すこともできません。
仮にそれを行えば、ユーロに対する信頼性は大きく低下するでしょうし、ギリシャの次はスペイン、イタリアというように、他の国々に対しても悪影響が拡散していきます。その点からも、ギリシャのユーロから離脱が、少なくとも6月の議会選挙前のように無秩序かつ非自発的な形で実現する可能性は極めて低いと見ています。
ギリシャがこの混乱を乗り越えて、経済成長と財政再建を果たせる可能性はありますか?
伊藤氏
ゼロとは言いませんが、かなりの困難が付きまとうでしょう。まず、何といっても景気の悪化に歯止めがかかりません。この状況で更なる財政緊縮策を行ったとしても、恐らく財政再建にはつながらないでしょう。言うまでもなく、景気悪化に伴って、税収が落ち込んでいるからです。
6月のEU首脳会議ではEUのGDPのおよそ1%に相当する1,200億ユーロの成長促進策で合意しました。EUの政策金融機関であるEIB(欧州投資銀行)やEU財政の構造基金を利用するもので、資金を危機国の成長・雇用支援に優先的に配分するという内容ですが、これがギリシャの危機脱出にどこまで好影響をもたらすかは、まだ何とも言えません。ギリシャの場合、行政機構の効率性の低さなどが障害となって、成長資金を有効に生かせないという問題も抱えているからです。
EU・IMFから資金繰りと成長・雇用支援を受けても、事態の悪化に歯止めがかからない状態が続けば、ギリシャが改革の痛みに耐えかねて自発的にユーロから離脱するという観測が高まるでしょう。ギリシャ問題については今後も、ユーロ圏にとっては小骨のように残るでしょうし、その時々に応じて、経済やマーケットのかく乱要因になる恐れがあります。
スペインの金融危機は、新たなユーロ危機の火種になるのでしょうか。
伊藤氏
スペインがギリシャ化したら、極めて対応が難しくなるでしょう。何しろユーロ圏の中では、第4位の経済規模を誇っているだけに、ここが財政も含めた包括的な支援を必要とするような事態に追い込まれると、ESMが準備している5,000億ユーロのセーフティネットが底を尽き、他の国に回す資金が足りないという状況に追い込まれてしまいます。それだけに、スペインの銀行セクターの問題を財政と切り離して、抜本処理することが必要なのです。
ESMがスペインの銀行増資支援のために用意している枠が1,000億ユーロ。最終的に必要な額はストレス・テストと厳格な資産査定の後に固まります。銀行危機の解決に必要なものは日本を始めとする数多くの経験から明らかになっています。ESMからの資金支援に加えて、金融改革のプロセスの監視にはIMFも参加することになっていますので、これにより問題の悪化に歯止めをかけるきっかけにすることは可能だと思います。
ただし、今のスペインは銀行危機と、それが波及することで引き起こされた財政問題、そして景気悪化という3つの要素が相互に影響を及ぼし合う悪循環に陥っています。10日に開催されたEU財務相会合ではスペインの財政赤字のGDP比3%以下への削減の期限を2014年に1年延長することを決めましたが、問題の発端が財政ではないスペインのケースでは、厳しすぎる財政緊縮が景気をさらに悪化させ、銀行の不良債権がさらに増大する、という悪循環に歯止めを掛けることにつながる適格な判断だと思います。そうはいっても景気後退局面での財政緊縮強化という方向は維持されます。財政緊縮のマイナスの影響を緩和するために、スペインにとってもEUが成長促進策として用意した1,200億ユーロを有効に活用するニーズは高いのです。
ここでスペインの問題をきちんと解決できないと、イタリアへの圧力が強まることになるでしょう。イタリアが本格的な危機に陥るようなことになれば、ユーロ圏の緊張はさらに高まり、世界的なインパクトも拡大します。ですから、何としてでもスペインの財政-金融-景気の悪循環に歯止めを掛けることが必要なのです。
イタリアは危機に陥るほど深刻な経済情勢なのでしょうか。
伊藤氏
何を持って「危機」というのか、という解釈の問題はあると思うのですが、少なくともイタリアの場合、ギリシャと全く同様の意味の危機が想定される訳ではありません。
ギリシャの場合、統計の不正や放漫財政の結果、気がつけば政府債務の規模が政府の支払い能力を超えていて、債務の再編を必要とする事態に追い込まれてしまいました。イタリアの場合は確かに政府債務の対GDP比の大きさはギリシャに次いでユーロ圏で第2位ではあるのですが、ユーロ導入以来、ほぼ一貫してプライマリー・バランスを黒字に維持してきた国です。プライマリーバランスというのは、国債発行による歳入はカウントせず純粋に税収をベースにした歳入と、国債発行による償還・利払いを除いた歳出を比較して、バランスが取れているかどうかを見るためのものですが、イタリアはこれで見ると歳入が歳出を上回る黒字状態です。
図表 イタリア、スペイン、ギリシャのプライマリー・バランス
伊藤氏
(資料)欧州委員会統計局
ただ、プライマリー・バランスは黒字でも政府債務残高自体が非常に大きいため、そこが弱みと見られています。政府債務残高の大きさからくる負担を少しでも緩和するためには、経済構造改革を進めて、経済の成長性を高めていく必要があります。
終始、頑なな姿勢を崩さないドイツの立ち位置に変化は見られますか?
伊藤氏
伊藤氏
EU首脳会議の成果、特に短期対策の面でマーケットが歓迎する結果が出てきたことを「ドイツの負け」とする見方もあるようです。確かに、危機が制御不能な状態になることを回避すべく柔軟な姿勢を示したということではあるのですが、例えば、ESMから銀行への直接支援の開始は、問題金融機関への経営介入の権限などを持つ単一の金融監督機関が稼動してから、という前提条件がついています。従来からのドイツの主張である「支援強化の見合いに監視や介入の権限を強化する」というスタンスは今回も貫かれています。
6月の首脳会議では、これからユーロ圏の統合を深めて制度を強化するための工程表作りの議論を進めることでも合意しています。欧州統合を推進してきたドイツとフランスですが、両国の間には原理原則を重視するドイツと成長指向の強いフランスという基本スタンスの違いがあります。通貨統合にあたっても、ドイツは経済的なバラツキの解消が優先とし、フランスは単一通貨の導入が先という対立がありながら、折り合いをつけてきました。この先の統合の議論、例えば銀行同盟やユーロ共同債を含む財政同盟の議論でも、監視・介入権限の強化が先とするドイツと、危機の封じ込めのために金融危機管理基金や政府債務の共通化が先とするフランスとの間で基本的なスタンスの違いが見られる訳ですが、これまでの統合深化のプロセスと同様に、時間をかけて妥協点を見出して行くのだろうと思います。
ユーロ危機が完全に終息するのはいつでしょう。
伊藤氏
何を持って終息したと言えるのか、という点を考えてみたいと思うのですが、それは恐らく、ドイツやオランダ、フィンランドなど北のユーロ圏とギリシャ、スペイン、イタリアなど南のユーロ圏の間に存在している民間マネーの行き来を遮る断層がいつ無くなるのかということだと思います。
少なくとも現状、北の民間マネーは、南にスムーズに流れない状況になっています。言うまでもなく、南の信用リスクが高く、ユーロ離脱国の出現といったリスクも排除できないため、投資することに臆病になっているからです。
民間マネーの流れが滞っている分は、EFSFによる支援やECBの流動性供給、さらにEIBやEU財政の成長戦略資金という公的マネーが補っているので、単一通貨圏としての体裁は辛うじて保たれています。しかし、これは単一通貨圏の正常な状態ではありません。北と南の間で民間マネーが滞ることなく行き来する状況に復帰した時に、ユーロ危機は終息したと判断できるのだと思います。
そのためには南の過剰債務問題が整理されなければなりません。今回の危機の原因である域内の債権・債務の膨張、競争力格差に歯止めを掛けることができなかったユーロの制度の抜本的改革を実現して、ユーロが持続可能な通貨であり、ユーロ圏が安定した通貨圏であるという信頼を回復しなければなりません。
ユーロ制度の抜本的改革の議論はまだ始まったばかりで、加盟国の間での見解の相違も目立つ段階です。実現までにかなりの時間がかかるでしょうし、紆余曲折もあるでしょう。10年単位のスケジュールを前提に考えていく必要があると思います。
掲載日:2012年月07月19日
伊藤 さゆり(いとう さゆり)氏プロフィール
ニッセイ基礎研究所・経済調査部門 上席主任研究員
伊藤氏
1987年 日本興業銀行入行。
2001年 ニッセイ基礎研究所入社。
2012年~ 現職。
著書
『 現代ヨーロッパ経済論 』 (部分執筆) ミネルヴァ書房 2011年 、『 現代の金融 -世界の中の日本 』 (部分執筆) 昭和堂 2009年



 
   
    

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