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【第9回】年明けの波乱相場でJ-REIT市場はどう動いているのか

Jリート [ 専門家インタビュー アナリスト鳥井氏に聞く ]

 

年明けの国内株式市場は、大発会から日経平均株価が400円の下落。さらに1月後半にかけては、アルゼンチン・ペソの暴落から新興国通貨が下落し、さらに株価の下落を引き起こす、波乱含みの展開となりました。新興国市場の混乱がJ-REIT市場に及ぼす影響はどうなのか。SMBC日興証券株式調査部シニアアナリストの鳥井裕史氏に伺いました。


新興国の通貨下落はJ-REIT市場にどのような影響を及ぼしますか。
鳥井氏

東証に上場されているJ-REITは、あくまでも日本国内の不動産に投資しているものなので、ファンダメンタルズ的には、影響なしと考えて良いと思います。ただ、J-REITは利回り商品ですから、リスクプレミアムレートがJ-REITの価格動向に影響を及ぼす恐れはあります。具体的に言うと、CDSスプレッドが上昇すると、J-REITの分配金利回りも全体的に上昇する傾向が見られます。利回りが上昇するということは、それだけ価格が下落することを意味します。


SMBC日興証券株式調査部
シニアアナリスト鳥井裕史氏

つまり、新興国で通貨危機などが生じると、国際的なクレジット市場ではリスクプレミアムレートが上昇するため、J-REITの価格も下落します。
ただ、現在の東証REIT指数を見ると、買い上がっていく状況ではありませんが、一方で大きく下げる気配も見られません。確かに1月後半にかけて新興国通貨が大きく下げ、その影響で株価も下落していますが、まだ信用不安が高まっているわけではありません。その意味では、まだそれほど状況は深刻ではないと考えられます。


J-REIT市場がプラスの方向に動意づくためには、何が必要でしょうか。
鳥井氏

やはり日銀の追加金融緩和政策の行方が注目されます。さらに追加金融緩和ということになれば、国債利回りはもう一段低下します。これによって、J-REITの分配金利回りから10年国債利回りを差し引いた「J-REIT分配金利回りスプレッド」が、現状の3%よりもさらに上昇すれば、J-REITへの買いが戻ってきます。結果、J-REITの市場価格は上昇傾向をたどります。

追加の金融緩和が行われるかどうかについては、意見が分かれるところです。現在、日銀が物価の目標値として掲げているのは、消費者物価指数を2%にするというものであり、2013年12月の数字は、生鮮食品を除く総合で1.3%です。消費者物価指数の上昇率だけを見れば、目標達成に向けて堅調に推移しています。したがって、これ以上、緩和する必要があるのかという議論があります。
しかし、一方で4月には消費税が5%から8%に引き上げられ、実体経済にどのような影響が及ぶのかは、これからの話です。政府は、さらにもう一度消費税率を引き上げ、10%にする必要があるので、そう簡単に景気を失速させるわけには行きません。もし、それまでに景気後退のサインが出れば、追加の金融緩和に踏み切るでしょう。

消費税率の引き上げが実体経済に及ぼす影響を考慮すると、日銀が追加金融緩和を実施する可能性は高いと見ています。かねてから、東証REIT指数は1,800ポイントを目指す動きになると申し上げておりますが、そのシナリオに変更はありません。
1,800ポイントを達成するタイミングですが、恐らく今年前半はまだ追加金融緩和の話も出て来ないでしょうから、横ばいの推移が続き、年後半にかけて上昇傾向をたどっていくという流れを想定しています。

  東証REIT指数

国内不動産マーケットの動きはどうですか。
鳥井氏

J-REITによる物件取得実績を見ると、2013年は前年比2.8倍の2兆2,268億円でした。また、東京23区のオフィスと住宅のキャップレートは、2010年~2011年に比べて100ベーシスポイントほど低下しました。それだけ、東京23区内の物件価格が上昇したということです。
なぜ、これだけ不動産価格が上昇したのかというと、前述したように、J-REITによる買いが活発だったからです。また、足元では私募ファンドや外資系ファンドを通じた資金流入も認められます。総じて、日本の不動産に対する買い意欲は強く、ファンダメンタルズは堅調といっても良いでしょう。

今後の国内不動産マーケットで注目されるのは、賃料の引き上げが行われるかどうかということでしょう。すでに賃料の下落は止まりました。これからは、景気の好転に伴って、賃料上昇が鮮明になれば、J-REITの価格上昇も期待できます。

J-REITによる国内不動産の買いが活発ということは、それだけ投資家がJ-REITに投資しているからだと思います。実際、投資家のJ-REITに対する投資意欲はどうなのでしょうか。
鳥井氏

特にJ-REIT特化型ファンドの残高上昇が目立ちます。2012年末の純資産残高合計は1兆円程度でしたが、2013年末には2兆2,000億円を超えてきています。それだけ、活発に資金が流入したということでしょう。実際、J-REIT特化型ファンドの資金流出入状況を見ると、2013年5月から8カ月連続で純流入が続いています。

また外国人投資家はプラスマイナスゼロという感じです。大幅に売り越してはいませんが、買い越してもいないという状況です。特に昨年はJ-REITの価格が大きく上昇したので、J-REITがポートフォリオに占める比率が上昇しています。今後、外国人投資家が積極的に動くためには、米国のREIT市場が今以上に堅調に推移し、価格が上昇するという状況にならないと難しいでしょう。そうなれば、J-REITのポートフォリオ比率を引き上げる動きにつながるため、外国人投資家の買いが増える可能性があります。

ただ、現状、米国ではQE縮小の動きがあり、REIT市場にとってはネガティブです。したがって、外国人投資家の積極的な買いには期待できないと見ています。
そして、日本の地方銀行の買いは、まだしばらく続きそうです。長期金利に対して3%のJ-REIT分配金利回りスプレッドが続いている限り、J-REITへの買いは続くでしょう。
ちなみに、地方銀行が物色の対象としているJ-REITは、信用力の高いところが中心です。格付けを取得しているJ-REITのなかでも、高格付け銘柄が好まれる傾向があります。

最後に、日銀の動向ですが、現状、日銀が積極的にJ-REITを買い入れていく状況ではありません。もちろん、J-REITの株価が急落し、マーケットに信用リスクが高まれば、日銀による買い支えも出てくるでしょうが、積極的に買い上げていくほど積極的ではありません。

J-REIT市場で想定される懸念材料は何でしょうか。
鳥井氏

懸念材料は2つあります。ひとつは先ほども触れましたが、世界的なクレジット市場の悪化です。これによってJ-REITのリスクプレミアムが上昇し、価格は下落します。
そして、もうひとつの懸念材料は金利の上昇です。調達金利が上昇したら、その分、コスト負担が重くなり、配当が減額されるケースも出てきます。
ただ、現状を見る限り、金利上昇による減配リスクは、相当程度低いものと考えて良いでしょう。というのも、長期債務が84%も占めているからです。調達期間が長いため、この間に金利が上昇したとしても、当面は低い金利水準の時に調達した金利が適用されるため、調達コストが急上昇することにはなりません。
だから、金利の上昇については、それほど懸念する必要はないでしょう。目先的に心配なのは、やはり新興国の混乱です。

新規上場の動きはどうでしょうか。
鳥井氏

物流や商業施設の大手どころは、昨年のうちに新規上場を果たしましたから、マーケットには出尽くし感が広まっています。もちろんゼロというわけではなく、今年も多少、新規上場を果たすJ-REITも出てくるでしょう。一部では、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームなどを投資対象にしたヘルスケアREITが複数立ち上がるという話もありますが、まだ、いつ上場されるかは見えてきていません。ヘルスケアREITの上場は今年中という時間軸で考えています。

J-REITには、さまざまなタイプがありますが、今、特に注目しているのはどのような物件に投資しているファンドですか。
鳥井氏

消費税引き上げの余波が想像以上に大きく、4月以降、景気の落ち込みが激しくなれば、オフィスビルや物流施設を組み入れて運用しているJ-REITから、ディフェンシブ性の強い住宅を組み入れたJ-REITに資金がシフトする可能性もあるとは思いますが、やはり、オフィスビルと物流施設を組み入れて運用しているJ-REITは、引き続き投資妙味が高いのではないでしょうか。今は、日本経済に対する成長期待が高まっていますから、住宅のようにディフェンシブ性の強い銘柄よりも、成長性を重視して、オフィスビルや物流施設を組み入れて運用するJ-REITが、物色の中心になると思われます。

参考コンテンツ:
Fanet MoneyLife Jリート



鳥井裕史(とりい ひろし)氏
SMBC日興証券株式会社株式調査部シニアアナリスト

大和総研及び大和証券SMBC(現・大和証券)において年金運用コンサルティング業務の一環として不動産投資分析業務に従事した後、2006年よりREIT専門のアナリスト業務に従事。2010年10月より現職。
InstitutionalInvestor誌「All-JapanResearchTeam」REIT部門で2012年、2013年ともに1位を獲得。
(社)日本証券アナリスト協会検定会員、(社)不動産証券化協会認定マスター

掲載日:2014年2月10日



   
    

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