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にわかに盛り上がるフィリピン、その実態は――フィリピン経済の専門家に聞く - 注目の投信 - 投資信託

 

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にわかに盛り上がるフィリピン、その実態は――フィリピン経済の専門家に聞く

フィリピンでは6月末にベニグノ・アキノ新政権が発足し、これまでの政治腐敗が改善されるとの期待が高まっている。さらに、足元の景気も急ピッチで回復しているうえ、欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)締結の可能性も浮上している。こうした好材料もあってか、フィリピンの代表的株価指数であるフィリピン総合指数は上値を試す展開だ。ポストBRICsとしての有望性を探るため、フィリピンの経済や政治などについて日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所・地域研究センター東南アジアI研究グループの鈴木有理佳研究員に聞いた。

フィリピン政府は2010年の実質国内総生産(GDP)の成長率見通しを従来の2.6%~3.6%から、5.0~6.0%に上方修正した。景気は好調なようだ。

鈴木氏:

経済成長のけん引役はGDPのおよそ8割を占める個人消費だ。フィリピンのGDPを見るうえでのポイントは、フィリピン人の海外労働者による本国への外貨送金額の動向。送金額はGDPの1割強を占める規模となっており、銀行を経由しない金額を含めると2割に達する可能性もある。この送金額は消費に回る。フィリピンを出て海外で就労する人が多いのは、同国特有の現象といえる。

輸出額はGDP比で約4割程度と、輸出依存度が高いマレーシアやシンガポールと比較すると相対的に比率が低くい。このため、フィリピン経済は他の東南アジアの国より世界景気に左右されにくい面がある。実際、アジア通貨危機の悪影響でマレーシアやタイの景気が大きく落ち込んだ一方、フィリピンは限定的だった。しかし、フィリピンの経済成長率は東南アジア諸国の平均より低く、低空飛行が続く状態をなかなか抜け出せない。

フィリピンの経済成長が他の東南アジア諸国に対して見劣りする理由は何か。

鈴木氏:

海外からの直接投資を基に加工貿易で成功したタイとマレーシア、これに対して十分な海外資金を呼び込めなかったフィリピンという歴史的な背景がある。例えば、当時の日本企業はマレーシアやタイなどアジア地域への進出を加速しており、リスク分散するうえでフィリピンも進出先の候補に挙げていた。だが、フィリピンでは1985年~86年にフェルディナンド・マルコス元大統領の独裁政権に対するクーデター騒動で治安が悪化、さらに91年から実施していた1日当たり10時間以上の計画停電などインフラの未整備さから、フィリピンへの進出に二の足を踏んだ。

その後は電力不足の解決と治安の改善により、日本を含めた海外資金がフィリピンに流入し状況が好転し始めたものの、97年のアジア通貨危機でまた沈んでしまう。不運続きの歴史がタイやマレーシアに水をあけられた面がある。 

アジア経済研究所の資料から抜粋(出所:UNCTAD)

今後の経済成長には何が必要か。

鈴木氏:

雇用の創出および質の向上を基にした経済発展を実現できるかがポイントだ。フィリピンの場合、経済規模の拡大と同時に人口が年率2%程度のペースで増加しているため、2009年時点の一人当たり実質GDPは1.5万ペソ台と過去28年間の間で約2割程度しか増加していない。同国は所得格差が大きい国でジニ係数(所得分配の不平等の程度を測る指標。1に近づくほど不平等が大きいことを示す)が0.458と、東南アジアの中では高い。所得の上位2割でフィリピン全体の所得の半分以上を占める状態が約20年も続いている。つまり、経済規模拡大のメリットが全体に行き渡らず一部の富裕層だけに富が停滞しているということだ。

アジア経済研究所の資料から抜粋(出所:ADB,Key Indicators 2009;アジア経済研究所、アジア動向年報2009。調査年は各国により異なり2002~2007年。)

ここ2~3年の失業率は7%台で推移しているが、潜在失業率を含めると20%に達する可能性もある。フィリピン国内での求人の絶対数が少ないため、人々は職を求めて海外へ行くしかなかった。フィリピン人は全般的に高学歴だが、こうした優秀な人材の流出はフィリピン企業発展の阻害要因として懸念される。

フィリピンといえば政治腐敗の問題が深刻だが、新政権には期待が持てそうか。

鈴木氏:

グロリア・マカパガル・アロヨ前大統領には再選後、大統領選の不正疑惑や農業省の資金流用疑惑、国家ブロードバンド・ネットワーク(NBN)事業の不正契約疑惑といった数々の疑惑が持ち上がり、不支持率が高い状態が続いていた。

フィリピンの選挙では不正が常習化していることもあり、これを防ぐために今回の大統領選から電子投票が導入された。アキノ大統領は透明性のある正しい方法で選ばれたとの認識から、国民の信頼性は非常に高いと思う。新大統領には政治汚職の撲滅はもちろんだが、雇用創出のためにも教育の分野などへの財政支出を手厚くして欲しい。

フィリピン総合指数は年初来高値の更新が続き、7月14日には3472ポイントと2008年1月の3482ポイント以来の高値水準に迫る勢いだ。フィリピン株とペソ相場を見るうえで注意点を挙げると。

鈴木氏:

フィリピン株式市場の時価総額は約13兆円と小さい。このため、時価総額の大きい一部の銘柄に売買が集中するほか、数社のみの株価の影響で指数が変動していることがよくある。また、財閥同士のM&A(合併・買収)を材料に指数が上昇していることもあるので、どのような要因で株価指数が上昇しているのか見極める必要がある。

フィリピンペソ相場は変動相場制だ。フィリピン固有の現象として、フィリピン人の海外労働者が多いので6月の新学期シーズンや、12月のクリスマスを控えた時期になると外貨の送金額が増加し、ペソ高圧力となる。しかし、フィリピン政府にとってペソ高は好都合のようだ。対外債務が多いのでペソ高になれば返済債務を少なくできるうえ、エネルギー資源は輸入に頼っているので物価上昇を抑えられるからだ。

フィリピンが今後、BRICsに次ぐ成長国として浮上するには何が必要か。

鈴木氏:

労働力の質のアップ、一人当たりGDPのアップ、個人消費のさらなるアップだ。これらが上手く相互に作用し始めれば、フィリピン企業の業績も好調となり、海外からの直接投資も増加するだろう。


執筆:QBR 根岸てるみ(掲載日:2010年07月20日)

   
    

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