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【国際ニュースはココを読め - 第10回 】 小麦がダメならパスタだ!

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特集・コラム [ 蟹瀬誠一コラム ]

蟹瀬誠一の国際ニュースはココを読め 第10回

小麦がダメならパスタだ!

蟹瀬誠一氏 明治大学国際日本学部長
国際ジャーナリスト 
蟹瀬誠一氏
先日、ある地方の農協が主催する講演会で、話をする機会に恵まれた。日本がTPPに参加するかどうかで、国論が二分されていた時のことだ。当然、演者としてそれに触れないわけにはいかない。日本はTPPに参加するべきか否か。本当は賛成、反対の二者択一ではなく、そのちょうど中間あたりに本当の解があるのだとは思うが、どちらかの選択を迫られたら、私は賛成に一票を投じる。
確かに、TPP亡国論をぶつ論者も少なくない。日本がTPPに参加した途端、海外から格安の農作物が雪崩をうって日本国内に入ってくる。日本の農家は壊滅的なダメージを受ける。日本から農家が居なくなっても良いのか、ということだが、今の日本の農業は、TPPに参加しようがしまいが、もはやサスティナブルではない。
子供が都会に出ていってサラリーマンになったため、実家の農家は「じいちゃん、父ちゃん、母ちゃん」の3人で何とか守っているという「三ちゃん農家」が増え、農地を捨てた農家も少なくない。今や、日本国内の使われていない田畑をすべて合わせると、その総面積は何と埼玉県と同じほどになるという。日本の農業人口は減少の一途をたどっており、すでに立ち行かないところまで来てしまったのだ。
日本の農家が衰退した要因は、自由化によって、海外から格安の農作物が大量に輸入されたからではない。日本の農家ほど、国際競争から手厚く保護されている産業は、他にないだろう。それでも農業人口は減る一方なのだから、これはあくまでも国内問題であり、TPPなどの自由化による影響とは別問題と考えるのが妥当だ。手厚い保護によって、生き残っていくための努力を忘れた結果が、今の衰退につながっている。いや、そうさせてしまった政治の問題ともいうべきだろうか。いずれにしても、TPPに関する議論の俎上に農業問題を持ちこむのは、筋違いと言って良い。
大事なことは、多額の補助金を用いて衰退産業を保護するのではなく、新たにより大きな雇用を生み出すことができる、付加価値の高い産業に置き換えていくことだ。
イタリアといえばパスタだが、これなどはまさにその典型例といってよい。
パスタの原材料となる小麦を、昔のイタリアは自国内で作っていた。それが、海外からより安価な小麦が入ってくるようになり、自国の小麦農家は存亡の危機に立たされた。この時、時のイタリア政府が取った政策は、小麦農家を保護するために補助金を出すことではなく、小麦の製造そのものを止めてしまうことだった。そして、小麦を原材料に作られるパスタを一大産業に育て、世界のマーケットを席巻した。
小麦農家に比べれば、パスタ産業の方がより大きな雇用を作り出すことができる。イタリア経済にとっては、間違いなくこちらの方がプラスだ。こういう柔軟な発想こそが、今の日本経済には求められている。
そもそも、日本経済がここまで成長できたのは、自由化の恩恵を思う存分に享受してきたからだ。戦後、焼け野原になったにも関わらず、今では世界第三位のGDPと世界最大の純債権国にまでのし上がって来られたのは、日本人が優秀だったから、ということだけでは決してない。1ドル=360円という、実力に比べて安く設定された為替レートの恩恵もあったが、何よりも米国という巨大市場が、日本に対して広く門戸を開いてくれたからだ。そうである以上、今度は日本が世界に対して広く戸を明け放つ義務がある。
そして、それにも増して重要なのは、今、世界では国同士の勢力争いではなく、自由経済圏同士が覇を競い合っているということだ。シンガポールやタイ、ベトナム、インドネシアなど10カ国で構成されているASEAN、米国、カナダ、メキシコで構成されているNAFTA、欧州27カ国で構成されているEU、アラブ産油国6カ国で構成されているGCCなど、実にさまざまな自由経済圏が作られている。こうしたなかで、日本だけが孤高を貫くというのは、どう考えても無理がある。
しかも、TPPのもうひとつの狙いは、中国の封じ込めにある。覇権国である米国としては、近年、急速に経済力を高めつつある中国の存在が、どうにもうっとうしくて仕方がない。こうした中国への経済的な牽制という意味も、TPPには込められている。
そうである以上、やはり日本がTPPに参加しないわけにはいかない。
日本経済は今、このまま衰退するか、それとも再び蘇るかの分岐点にいる。誰も衰退して欲しいなどとは考えていないだろう。それならば、どうしたら日本経済が蘇るのか。
ここで大事なことは、政治体制にしても税金にしても、あるいは諸外国との貿易取引にしても、今までとは異なる新たな枠組みを導入し、国の在り方をもう一度、大きく作り直していくことだ。
そのきっかけのひとつが、TPPなのである。
掲載日:2012年月01月05日

プロフィール
蟹瀬誠一(かにせ せいいち)氏プロフィール
明治大学国際日本学部長
元スーパーモーニングニュースキャスター
米AP通信社記者、仏AFP通信社記者、米『TIME』誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。
文化放送「蟹瀬誠一、ネクスト」のパーソナリティ、『経済討論バトル頂上決戦』 (朝日ニュースター)『賢者の選択』(BS朝日) 『地球感動配達人 走れ!ポストマン』(TBS)などのキャスター・レギュラーコメンテーターを務め、カンボジアに小学校を建設するボランティア活動や環境NPO理事としても活躍。
2004年から明治大学文学部教授、2008年から同大学国際日本学部長に就任。
 
   
    

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