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東京証券取引所 高速・大容量データの板情報を可視化して数値も入手できる無料ウェブサービス

 

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【東京証券取引所】

高速・大容量データの板情報を可視化して数値も入手できる無料ウェブサービス

2011年12月にリリースされた「東証Market Impact View」。株式取引の執行インパクトをより精細に推計できたり板情報を可視化できるなど、一部の証券会社や投資家の話題となっている。利用にあたっては東京証券取引所(東証)のウェブサイトで誰でも簡単に登録でき、分析データも無料で入手できる。同取引所情報サービス部商品企画運用グループの菊地孝史氏と、開発に携わった尹 煕元氏(シーエムディーラボ代表取締役)に、「東証Market Impact View」の特徴と開発の経緯などを聞いた。

執行インパクトの分析が簡単に可能

「東証Market Impact View」がリリースされて3カ月以上が経ちました。証券会社や投資家の反応はいかがですか。

菊地孝史氏 東京証券取引所情報サービス部商品企画運用グループ
菊地孝史氏

菊地氏:

2012年3月末でおよそ3,000IDをご提供しています。リリース当時は数十社ほどの証券会社さんへご提案にうかがいましたが、各社で「おもしろいね」という声をいただきました。一方で、世界で初めて開発・描画したデータやグラフが多いので、「使う前に十分な説明が必要ですね」という声も。現在はできる限り多くの投資家さんやトレーダーさんに使っていただき、その反響を集めてブラッシュアップしていきたいと考えています。

「東証Market Impact View」は、arrowheadによる高速のフル板情報と独自の統計的手法を用いて、「売り」「買い」注文の偏り状況や板の厚みなどの分析情報を提供するものです。現在はベータ版ということで、100銘柄を対象にした分析サービスをどなたでも無料で使うことができます。


具体的な特徴としては、
(1)取引している銘柄の注文状況が「売り」「買い」のどちらに偏っているか、描画によって直感的に把握できる
(2)注文状況が「売り」「買い」のいずれかに偏っている銘柄を簡単にピックアップできる
(3)複数銘柄の「売り」「買い」注文の偏りも俯瞰(ふかん)的に描画
(4)板が厚い、値段が動きにくい、流動性が高いなどの銘柄を可視化
(5)潜在ボラティリティが高い(または低い)銘柄をピックアップできる

などが挙げられます。いずれにしても、この分析情報と描画システムは海外の取引所でも類を見ない、まったく新しい情報提供サービスということができます。

尹氏:

たとえば「東証Market Impact View」では、取引による執行インパクト(ある銘柄の執行直前の価格と実際に約定した価格差)を分析することができます。証券会社には最良執行義務が課されています。取引の発注を受けた証券会社は顧客にとって最良の条件で取引を執行しなければなりませんが、その測定・分析が容易ではありませんでした。「東証Market Impact View」を使えば、証券会社が独自に最良執行の状況を検証できるようになるでしょう。

これまでの分析モデルは気配値や約定情報などで執行インパクトを推測していました。「東証Market Impact View」では基本的に、成行執行の場合に、瞬時に約定する数量すべてを考慮して分析されています。板の深さ(depth)などを含めて、約定しうるすべての注文情報が統計情報として5秒ごとに算出されています。過去に同じような執行インパクトの測り方はなかったと思います。その意味でも世界初、そして現状では唯一の情報提供システムではないでしょうか。

板の密集度合いがひと目でわかる個別銘柄分析

「東証Market Impact View」の具体的な機能を教えてください。

菊地氏:

大きく2つの機能があります。個別銘柄分析と市場分析です。たとえば個別銘柄分析では、① 執行インパクトグラフ、② インパクト時系列グラフ、③ 板バランス――という3つのグラフが描画されます。


「執行インパクトグラフ」は、ある数量を買っていくと、どこまで値段(平均約定単価)が上がっていくのかということが一目でわかるようになっています。

「東証Market Impact View」では、複雑な注文状況を「インパクト係数」と「形状係数」という2つの数値に集約することで様々な分析を可能にしているのですが、このうち、「インパクト係数」はこのグラフの「傾き」に相当し、この値が大きいほど一定の数量の発注があった際の執行インパクトがより大きくなることを意味しています。

グラフ①執行インパクトグラフ

一方、「形状係数」は注文が相対的に最良気配付近に多いのか、もしくは板の中心から外れたところに多いのかを示します。グラフ①の売りインパクト曲線では、例として青実線(上に凸)と水色点線(下に凸)を記載しています。通常は最良気配(この板情報例では500円、501円あたり)に注文が集まる(青実線(上に凸)のような状態)ことが多いですが、実際にはもっと奥の(上下に離れた)注文が相対的に多い状態になることもあります(水色点線(下に凸)のような状態)。奥の注文が多くて最良気配あたりの注文が薄いと、比較的少ない数量の取引でも価格が跳ね上がることが考えられます。水色点線のような状態にある場合、取引は要注意ということになります。

「インパクト時系列グラフ」は執行インパクトグラフをタテにして、一定株数ごとに色の濃淡をつけて時系列で可視化したイメージ。これが時系列で動いていきます。地図の等高線をイメージしていただきたいのですが、色の濃淡の間隔が狭いほど、板が厚く、インパクトが出にくい状況を示していることになります。注文状況を時系列で表示するというのは珍しい試みなのではないかと考えております。

グラフ②インパクト時系列グラフ

「板バランス」は注文状況から、板のバランス(売買注文のバイアス)を表現したもの。売りと買いのどちらにインパクトが出やすい注文状況かということが、ひと目でわかるようになっており、需給バランスがどのように時系列で推移してきているかが簡単に把握できます。

グラフ③板バランス


「東証Market Impact View」では、上記のインパクト係数や形状係数、板バランスなどの日々の数値データをウェブ上でダウンロードできるようにもなっています。ユーザーの方はデータを利用して、様々な分析を独自にすることもできます。

尹氏:

つまり、個別銘柄分析では、板の密集の度合いがひと目でわかるわけです。「東証Market Impact View」のように、グラフなどで図示したインターフェースは証券会社のディーラーの方でも初めての体験だと思います。最初は仕組みをきちんと説明したうえで、使いこなすまでには相応の慣れが必要かもしれませんね。

全体の注文状況がひと目でわかる市場分析画面

菊地氏:

一方、もうひとつの市場分析画面では、市場全体のトレンドを把握するのに役立つ、「板バランス・リターンマップ」を提供しています。

具体的には、売り買いの注文の偏り状況を表す「板バランス」を縦軸、実際の約定価格の状況を横軸としたグラフ上に、各銘柄を点で配置しています。

100銘柄を同じグラフ上に一度に表示していますので、全体としての売り買いのバランス状況を把握したり、売り買いの注文の偏りが全体から突出した銘柄のスクリーニングなどに活用することができます。


また、「板スプレッド」という、最良気配値より奥の注文状況まで考慮したスプレッドに関する情報を提供しており、流動性がどのような状況にあるのか、価格が大きく動きそうな注文状況なのかどうかといったことが把握できます。


arrowhead稼働で生まれた課題に対するソリューションとして

「東証Market Impact View」はarrowheadになって高速化した板情報をより使いやすくするために何ができるのか、という東証のチャレンジのように感じます。

菊地氏:

はい。2010年1月にarrowheadが稼働して、フル板情報の提供と高速かつ大容量データの配信が可能になりました。その結果、投資家や証券会社さんに新しい課題も生まれました。たとえば、トレーダーの方にとっては板の動きが非常に速くなって、目視での投資判断が難しくなった面があります。配信される大容量のデータはユーザー側でのシステム負担が大きくなりました。フル板情報を提供しても、単に見るだけでなく高度な分析・計算環境がなければ活用し切れません。

菊地孝史氏 シーエムディーラボ代表取締役
尹 煕元氏

これらの課題に対するソリューションのひとつとして、「東証Market Impact View」を提供しました。

尹氏:

arrowheadはミリ秒単位で数値が動きます。人間は見るどころか、認識すらできないスピードです。そのため板を見ながらのトレードは現実的ではなくなっているのです。そこで、見ることができるぎりぎりの数値を把握したうえでトレードしようという考えが生まれました。「東証Market Impact View」は5秒ごとの更新ですが確実な数値を確実に見せています。このことによって、どこで指値をすればよいのか、株数をどうすればよいのか、などが初めて実感できるようになります。

よく「買いが多いから上がった、売りが多いから下がった」などと言いますが、買いが多いのかどうかは本来、約定情報ではわからないのです。マーケットでは価格と数量が一致しないと成立しないので、すべての約定情報は売りと買いのバランスが同じだからです。

「東証Market Impact View」のデータは、約定する直前瞬間の需給バランスを提供する世界でも初めてのもの。また、人間が理解できる5秒ごとの扱いやすいデータにサマライズして、時系列にグラフ描画、周知データをウェブ上から無料で入手することもできます。こうして見ると「東証Market Impact View」が提供する分析データは、今後のアルゴトレードの開発素材としても非常に有効なのではないかと考えています。

>>「東証 Market Impact View」 詳細はこちら


取材・執筆:Fanet MoneyLife(掲載日:2012年3月30日)
   
    

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