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-1- 日銀金融政策決定会合 「日銀のスポークスマンは1人じゃない」 田谷禎三・元日銀審議委員に聞く - 特集【金利】 - 経済トピックス - 話題とコラム

 

特集・コラム [ 金利 ]

金利-1- 日銀金融政策決定会合について 田谷禎三・元日銀審議委員に聞く「日銀のスポークスマンは1人じゃない」

「日銀がX月X日、政策金利を0.25%引き上げ、無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.50%とすることを決めた」――。近くこんなニュースが聞かれる日が来るかも知れない。日銀の追加利上げによって、私たちに普段関わってくる預金金利、住宅ローン金利はどのように変わるのだろうか。
 QUICK MoneyLifeは、知っているようで知らない金利が決まるメカニズムについて特集する。第1回目は、政策金利を決める「日銀金融政策決定会合の役割」について、1999年から5年にわたって日銀審議委員を務めた大和総研特別理事の田谷禎三氏に話を聞いた。

▼日銀金融政策決定会合とは?

日本銀行が1998年10月に施行された新日本銀行法に基づき、金融政策を運営・決定する会合。総裁、2名の副総裁、6名の審議委員による合議制で採決され、原則毎月2回行われる。中央銀行として「物価の安定」を図り、「国民経済の健全な発展」を目的として、政策金利を判断する。

議論する具体的な内容は、(1)金融市場調節の方針(2)基準貸付利率(3)金融政策判断の基礎となる経済・金融情勢に関する基本的見解――など。その月の初回の会合は2日間にわたって開催され、会合終了後には金融市場調節の方針を即座に発表する。会合終了後には、15時30分から総裁が記者会見を開いて背景説明を行うため、市場参加者にとっては政策判断のニュアンスを読み解く機会ともなる。議論の内容は「議事要旨」によって概要が約1ヶ月後に公表される。

なお、政府からは財務大臣、経済財政担当大臣、またはそれらの代理が会合に出席できる。政府からの出席者は意見を述べることができ、また次回会合まで議決を延期することを求めることもできる(いわゆる議決延期請求権)。

日銀の審議委員はどんな仕事をしているのですか?

田谷氏

審議委員というと政府の審議会の委員を想像する方が多いようで、皆さんからは「田谷さんは本当に、毎日、日銀に行っているんですか・・・?」とよく言われました。審議委員の仕事には、金融政策決定会合で政策金利を決める「審議委員」以外に、政策委員会の委員として、日銀の業務を決定する役目もあります【図1参照】。

これはいわば会社の取締役会のようなもので、毎週1回、正副総裁と審議委員が集まって会議が行われるのです。あまり報道されませんが、運営上の問題からお札の発券業務、はたまたシステム投資のことまで、日銀が行う全ての業務について決定しますから、その準備のための会議も含めて毎日仕事があります。

私が最初に政策委員会で扱った案件は、日銀のある支店に勤めていた女性職員が年金受給資格に達しないまま退職したという問題でした。また日銀職員が新券の連番を抜き去った不祥事があった時には、内部の処分案に対して異論を唱えたこともあります。自分の持っている「常識」を日銀の政策運営、機関としての決定に役立たせることが、われわれ外部から来た審議委員の役目です。

金融政策決定会合の難しさは?

田谷氏

審議委員を務めていた5年間、気が晴れることは無かったですね。特に苦しかったのは、2001年から2002年にかけての時期で、いつも気分的に肩が重たく感じていました。2001年以降、景気が悪い中で量的緩和政策を続けていた当時、毎日毎日、何かできることはないのかと考えていました。日銀は量的緩和政策の時にも担保政策を変えたり、いろいろな政策をとったわけですが、私も日銀内外のいろんな勉強会に出て政策の検討を重ねていました。

誤解されていますが、金融政策決定会合に向けて事前に審議委員どうしで意見をすり合わせるようなことはなく、会合は相撲でいう「ガチンコ勝負」です。どんどん意見を戦わせました。特に2003年に福井総裁が就任してからは、議事運営もそうとう活発な手法に変わったと思います。

エコノミストである田谷さんが心掛けたことは何ですか?

田谷氏

私は日銀に、もっとマーケット感覚を取り入れてもらいたいと常々思っていました。審議委員に就任した当時、部屋にあったのはイントラネットの端末1台だけです。「これでは仕事になりません」と言って、ブリッジ(当時)、ロイター、QUICKなどを見られるように情報端末を導入してもらい、退任前にはブルームバーグも入れてもらって3つのモニターを見ながら仕事をしました。他の審議委員にも私の部屋に来てもらい、情報端末の良さをアピールしたところ、狙い通り全ての審議委員の部屋に端末が導入されましたよ。

また、金融政策決定会合を開く丸テーブルのある会議室には、マーケットのレートやニュースを流す電子ボードがあるのですが、私が来たころには金利関係のものしか表示されていませんでした。これでは意味がないと思い、日米の株価から米国債、金価格、原油先物などなど、各種レートを見られるようにしてもらいました。民間に戻ったいまも10分と経たないうちにマーケットの動きを見る癖がついていますが、審議委員の時はなおさら「マーケットには敏感でいよう!」と思い、緊張感をもって業務に当たっていました。

刻々と変化するマーケット、経済に対応することは難しいですね

田谷氏

2001年2月9日の金融政策決定会合で、私は無担保コールレートと公定歩合の利下げを提案しました。エコノミストとして分析する際、「決定的な数字」というのがあります。当時、年明け後に発表された機械受注統計を見て、私は「おかしい」と判断しました(※注1)。ゼロ金利解除後でも景気減速に対応しなければならない局面と思い、初めて利下げを提案したのです。

この時は中原伸之さんと植田和男さんが利下げに賛成票を投じ、翌月の3月19日の会合では量的緩和の導入に至りました【図2参照】。量的緩和については「実体経済にも効果があった」という意見と、「ゼロ金利政策以上の効果はない」とに分かれ、いまだ評価は定まっていません。しかし、2000年以降の米国・欧州の金融政策を見る限り、日本の経験から学んだことは大きかったのではないでしょうか。「量的緩和」だけでなく、「時間軸効果」など、日銀が実行した政策に評価できるものは多いと思います。

  年月日 政策変更の概容
(1) 1999/2/12 ゼロ金利政策導入(無短コールを0.15%前後で誘導、より一層の低下を促す)
(2) 2000/8/11 ゼロ金利政策を解除(無短コールを0.25%前後で推移するよう促す)
(3) 2001/3/19 量的緩和政策を導入(当座預金残高を5兆円程度に増額する)
(4) 2004/1/20 追加緩和を実施(当預残目標を30~35兆円程度に増額)
(5) 2006/3/9 量的緩和を解除(無短コールが概ねゼロ%で推移するよう促す)
(6) 2006/7/14 ゼロ金利政策を解除(無短コールを0.25%で推移するよう促す)

※注1 2001年2月9日に発表された12月機械受注統計で、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」は前月比+3.8%増を記録した。しかし「外需」の項目は▲13.1%の減少となり、2ヶ月連続のプラスからマイナスに反転。2000年にITバブルが破裂し、日経平均も1万3000円台まで下落する中、当時は景気の下振れリスクが強まりつつあった。

ところで、審議委員になって生活のリズムは変わりましたか?

田谷氏

もともと夜型の人間で、民間時代は夕方からエンジンが掛かり始め、23時くらいまで仕事に没頭するタイプでした。最初は日銀でもそのスタイルを続けていたのですが、私が遅くまで仕事をしていると、「帰っていいですよ」と言っても日銀職員のアシスタントや運転手が帰宅しません。気を使わせては悪いと思い、18時には帰宅して残りを済ませるようにしました。

こうして朝は8時半ぐらいに日銀に出勤するスタイルに変えましたが、私が出勤する時間帯に日銀の役員玄関は開いていなかったのです。同じく朝が早い福間年勝さんが審議委員になってから、日銀の役員玄関もようやく朝早く開くようになりましたね。

また日銀の正副総裁、審議委員の大事な役目として、地方に出張して、「金融経済懇談会」で地元の方に金融・経済情勢などを報告する機会があります。テーラールール(※注2)など、難解な金融の専門用語を一般の方に判りやすく説明するという苦労はありましたが、私自身、優れた技術を持った企業を訪問したり、若手経営者とのざっくばらんな会合に参加するなど、実体経済に触れる良い経験をさせてもらいました。審議委員というのは、本当によく考えられた仕組みだと思いますね。


※注2 テーラールール=政策金利の水準を計算する方式の1つ。1993年にスタンフォード大学のジョン・テーラー教授が提唱したもので、民間のエコノミストだけでなく、さまざまな中央銀行でも参考にされている。具体的な計算式は「政策金利=均衡実質金利+目標インフレ率+α×(インフレ率-目標インフレ率)+β×需給ギャップ」で現されるが、実際の金融政策はこのルール通り決まるわけではない。また、1970年代のインフレを再び起こさせないために提唱されたテーラールールは、米国の過去の政策金利の動きを適切に計算できたが、ゼロ金利の日本には当てはまらなかった。

日銀の金融政策を見るポイントを教えて下さい

田谷氏

金融政策決定会合の議事要旨はA4版なら数ページほどで、以前と比べればそれほど分量も多くありません。前半は経済情勢についての議論、後半は金融政策についての議論が掲載されているわけですが、ここをじっくり読むのは大変でしょう。

むしろ個人投資家の方なら、月初に開かれる決定会合の後に公表される「金融経済月報」を読むと良いのではないでしょうか。これは日銀の調査統計局がまとめるレポートで、私はいまも読んでいます。証券会社や銀行も同じようなレポートを出していますが、その時その時の経済情勢をまとめた資料として、私は日本で一番よくまとまっているものと思います。中立的な立場で、専門家でない方にも分かりやすいように書いてありますし、冒頭の数ページを読んだ後にグラフのページを見れば、いまの日本経済の位置関係をビジュアル的に知ることができます。株式・債券といった証券投資を考えるなら、「日銀短観」の業況判断DIで景況感を探ると良いでしょう。製造業・非製造業の経済状況がよく分かりますし、なんといっても回答率98~99%という優れた統計です。

もちろん、日銀総裁の記者会見・講演もチェックした方が良いでしょう。日銀における最大のスポークスマンは福井総裁です。しかし、各審議委員もそれぞれの見識・考えを持って発言していますので、総裁だけがスポークスマンということではありません。


【インタビュー:2007年1月、聞き手:MoneyLife 片平正二】
(掲載日:2007年2月13日)

●金利特集第2回では、政策金利である「無担保コールO/N物レート」を取引する短期金融市場についてレポートします。

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