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-7- 個人向け国債 「分かりやすさ」「安全性」を重視 財務省理財局国債業務課・片山一夫課長に聞く - 特集【金利】 - 経済トピックス - 話題とコラム

 

特集・コラム [ 金利 ]

金利-7- 個人向け国債について 「分かりやすさ」「安全性」を重視した金利商品

金利が決まるメカニズム特集の最終回は、「個人向け国債」についてレポートする。円金利で運用できる金融商品といえば、マネー・マーケット・ファンド(MMF)や銀行の定期預金などがあげられるが、いまのところ金利の高さや安全性では個人向け国債が優位な商品と言える。2003年3月から販売が始まり、その残高はいまや23.3兆円にまで成長した。今回、この個人向け国債の発行を手がける財務省理財局国債業務課の片山一夫課長【写真】に話を聞いた。
 片山氏は、2007年10月から金融機関の窓口で募集取扱方式により2年債、5年債、10年債の販売も始める予定としながら「団塊世代が退職金を運用する場合にも、個人向け国債は中核的な役割を果たすでしょう」と抱負を語る。政府として国債の安定的な発行・償還を図りながら、個人投資家に向けては安全な運用商品としての普及を進めるという。

写真1 財務省国債業務課・片山一夫課長
財務省国債業務課 片山一夫課長

なぜ、個人向け国債の発行を始めたのですか?

政府の債務残高が増える中、国債の確実かつ安定した発行と償還が求められています。そのためには国債の投資家層を広げることが重要です。
いま、日本の国債の保有層はおおきく4つのグループに分けられます【図1参照】。1つ目は政府・日銀などの公的な部門。2つ目は郵便貯金・銀行などの預金金融機関。3つ目は生損保や年金などの機関投資家の部門。4つ目が海外投資家や個人など、その他の部門です。
金融機関に保有残高が偏っていると、2003年のVARショック(※注1)のように、金利が短期間で1%以上も大きく変動するようなリスクがあります。また個人向け国債の発行を始めた当時は、エンロンショックの後で金融不安が高まっていたことに加え、ペイオフ解禁の問題もあり、リスクフリーの安全な金融商品が求められていました。間接金融から、直接金融への流れを後押しするという狙いもあります。
図1 国債の所有者別内訳(2006年9月末速報)
図1 国債の所有者別内訳(2006年9月末速報)
日本と同じように大量の国債を発行している米国では、家計の国債保有比率は12.1%となっています。日本でも家計の国債保有比率は2001年の2.6%から2006年には4.5%まで増えましたが、まだまだ拡大する余地はあるでしょう。
※注1 VARショック=VARはブイ・エイ・アールと呼び、Value at Risk(想定最大損失額)のことをいう。金融機関が運用するときに用いるリスク管理手法のひとつ。予想されるリスクを定めないで、過去の株価・金利・為替などの観測データをもとに、一定の確率によって運用対象が被る可能性を推計する。2003年6月から8月にかけ、長期金利が0.430%から1.550%にまで急上昇した局面は、VARを採用する金融機関が一斉に国債を売却したことで市場が混乱したため、「VARショック」と呼ばれた。

個人向け国債と、通常の国債の違いはなんですか?

自国通貨建ての国債のため、信用リスクがない、リスクフリー資産というところは同じです。まず個人向け国債の特徴の1つは、年4回発行される季節性のある商品だという点です。イベント性を重視していますので、ボーナス時にキャンペーンなども行われやすい商品と言えます。
特に個人向けのため、「分かりやすさ」と「安全性」を重視した商品設計となっています。たとえば募集の価格が額面金額100円につき100円で額面発行(※注2)となっていること。また、中途換金の場合にも額面で応じますので、価格が変動するリスクがありません。
なぜこのような商品性にしたかというと、個人に保有者を限定しているからです。通常の国債なら市場で売買ができますが、個人向け国債は価格変動リスクがない代わりに、政府が買い取りに応じることで中途換金にも対応しています。ただ中途換金されると、政府としては再び国債を発行して再構築する必要がありますので、「変動10年」は直前2回分の利子相当額(税引前)を、「固定5年」は4回分の利子相当額(税引前)を差し引くかたちで違約金を頂いています。
その他の違いとしては、1万円単位で購入できることです。普通の2年債、5年債、10年債は郵便局の窓口などで購入できますが、こちらは5万円単位となっています。また個人向け国債はペーパーレスとなっていますので、券面の紛失や偽造を防ぎ、利子・元本の受け取りを忘れることもありません。
※注2 額面発行=パー発行とも呼ばれる。国債は額面の価格で償還されるが、実際に発行される時の額面は発行日から償還日までの期間、またその時の金利水準によって変わってくる。3月に入札が行われた通常の10年債(第285回債)は平均価格100円29銭、募入平均利回り1.666%となったが、2006年8月の第280回債では99円74銭、募入平均利回り1.931%となった。債券の場合、募集価格が本来の額面である100円を上回ったり下回ったりすることは調整上よくあるのである。

変動10年と、固定5年の2つを用意した狙いは?

金利情勢にあわせて異なるニーズに応えるため用意しました。両方とも通常の5年債、10年債の利回りを参照するため、分かりやすさにも配慮しています。
「変動10年」を一言でいうと、「将来の金利上昇を買う商品」となります。変動10年の利回りは10年債の実勢金利から▲0.80%を引いたものとなっていますので、長期金利が上昇する局面では、ある程度の金利収益を確保することができます【図2参照】。
図2 個人向け国債に100万円を投資した場合のシミュレーション
図2 個人向け国債に100万円を投資した場合のシミュレーション
2003年4月発行の第2回債に100万円を投資したと仮定。
10年債利回りの上昇にあわせ、利子適用利率も上昇するため、元本と利子を合わせた合計額は4年間で102万1200円となる(税引き前)。
ただ3月30日に中途換金した場合には、経過利子相当額として4310円が加えられ、中途換金調整額として7000円が引かれるため、税引き後の最終的な受取額は101万4276円となる。財務省資料よりQUICK作成。
債券投資家にとって最も望ましい投資は、金利が一番高いときに、期間が長い債券を買うことです。しかし日本の長期金利のトレンドを見ますと、1990年の半ばに金利がピークをつけ、2003年6月まで13年間かけて金利が低下し、その後は非常に緩やかな金利上昇傾向にあります。そもそも、金利のピークがいつ来るのかは誰にも分からないでしょう。また国内では短期金利が低く、長期金利が高い状況となっていますので、短期金利で運用していても余りリターンは良くなりません。しかし変動10年なら、その時々の3~4年債程度の金利水準のリターンを確保しつつ、中途売却した時にも価格変動リスクを抑えらますので、投資家のニーズに応えられると思います。
一方の「固定5年」は、「現在の金利水準の魅力を買う商品」と言えます。固定5年の利回りは5年債の実勢金利から▲0.05%を引いたものですから、通常の5年債に近い金利水準でリターンを固定できます。固定5年の利回りは、現在の同年限の定期預金の2倍程度の金利水準です。

財政を預かる立場として、特に気を使っている点は?

国債発行者と、国債保有者の両者の立場のバランスを取る点では、特に気を使っています。
国債を発行する立場からすれば、できるだけ長期の国債を、譲渡制限を厳しくして発行できれば、安定した投資家を確保できます。しかし国債保有者には、期間は短く、いつでも換金が可能というニーズがあります。そのため、個人向け国債は個人に保有者を限定して譲渡制限をする一方で、一定期間後は政府が買い取りに応じます。また保有期間の長い変動10年については、利払い期毎の変動金利にしています。納税者の立場から見ても、バランスの取れた商品設計になっているでしょう。
また中途換金の制限期間(変動10年は1年、固定5年は2年)の特例として、保有者が死亡した場合のほか、災害救助法の適用対象となる大規模災害を受けた時には中途換金に応じています。他の国債や公募地方債と同じように、「障害者等の少額貯蓄非課税制度」の適用も受けられ、制度の対象になる障害者等の方は、マル優、特別マル優でそれぞれ額面350万円までの利子が非課税となります。

ところで、ホームページも充実していますね 

図3 財務省の「個人向け国債」のホームページ
図3 財務省の「個人向け国債」のホームページ
中途換金した場合のシミュレーション機能のほか、イメージキャラクターの小雪さん、本木雅弘さんのポスターなどをダウンロードできる。小雪ファンには好評らしい。
商品性について詳しく説明する専用サイトを財務省の中に設けています【図3参照】。個人投資家向けのQ&Aだけでなく、中途換金シミュレーション、個人向け国債を販売している金融機関へのリンク集なども掲載しています。またホームページだけでなく、「国債情報ダイヤル」といった電話でのサービス、お知らせメールでも情報を配信しています。
米国では「トレジャリーダイレクト」というサービスで米財務省が国債を直接、個人投資家に販売しています。米財務省はこのために専任の職員を1500人ほど用意していますが、財政事情の厳しい日本で同じ販売体制はできません。幸い日本には、金融機関や郵便局などの幅広い金融ネットワークがあります。ホームページでリンクを貼るなど、民間と協力しながら販売に努めたいですね。

今後の新サービスなどの予定は?

引き続きTVコマーシャルなどでPRする一方、募集取扱期間を充実させます。2006年冬の募集の時には、入札日程などの関係で募集期間が11日しか取れませんでした。今後は安定して15日程度を確保できるよう工夫していきます。また国債業務課としても、地銀・信金などの販売金融機関向けの国債研修のほか、金融機関の顧客向けセミナーなどで一緒に協力してPRできればと思っています。
この10月からは、通常の2年債、5年債、10年債の募集取扱方式による窓口販売を一般の金融機関に拡大する予定です。現在、郵便局で行われているものですが、10月からの郵政民営化に合わせて民間金融機関にも広げます。これが実施されれば、個人向けに年4回の個人向け国債だけでなく、毎月国債が販売されるようになるでしょう。
現在、1500兆円の個人金融資産のうち国債が占めるシェアは2.2%ですが、金融機関では「預金」と「預かり資産」に分け、販売に力を入れているようです。預かり資産には投資信託や変額年金、外債・外貨預金、そして個人向け国債が含まれますので、国債はもっと普及するのではないでしょうか。
銀行・信用金庫などの預金は個人だけで計430兆円あります。郵便貯金は190兆円、大手証券会社の預かり資産も200兆円以上あるわけですから、これらの資金の何パーセントかが国債に向かえば、個人の保有比率が上昇する可能性は十分あるでしょう。今後は団塊世代の大量退職が予定されています。退職者はフローの収入がなくなるため、退職金には安全かつ計画的な運用が求められます。
ある新聞が報じた試算では、60歳で3000万円の退職金を受け取り、毎月10万円ずつ取り崩したと仮定したとしても何歳まで生きるかによって必要なリターンは変わるそうです。80歳代の後半まで生きるなら個人向け国債(運用リターンを1%と仮定)だけで十分とのことです【図4参照】。
図4 60歳から3000万円の退職金を取り崩した場合のシミュレーション
図4 60歳から3000万円の退職金を取り崩した場合のシミュレーション
毎月10万円ずつ生活費として取り崩しながら、1~3%の複利運用を行ったと仮定。希望する利回りが1%ならば、個人向け国債(年利1%と仮定)がポートフォリオの10割。2%の運用利回りを確保する場合、ポートフォリオの4割で3.5%の利回りを得られる金融商品に投資する一方、6割を個人向け国債に振り向ければ良い計算となる。QUICK作成。
 90歳代後半まで生きても2%のリターンで済みますから、ポートフォリオの6割に個人向け国債を組み入れることができるようです。100歳超まで生きた時には3%のリターンが必要ですが、そのときも個人向け国債は4割組み入れられるそうです。団塊マネーの資産運用の上でも、個人向け国債は中核的な商品となるのではないでしょうか。
【インタビューは3月に実施 聞き手:MoneyLife 片平正二】
(掲載日:2007年3月14日)
   
    

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